第231話 もう一人の女神
シスターが急に大きな声を出したので、すぐそばにいた俺とフィリア王女はビックリしてしまった。
「あぁ…。急に大声を出してすみません...」
「いえいえ。ちょっとビックリしましたけど」
「助けに行けるものなら行きたいですが、ここの教会のこともあるし、シスターや司教さんが集まったところでたかがしれてますし、何の武力もございません。腕利きの冒険者を雇うことも考えましたが、冒険者ギルドを通すと教国側にも知られてしまう恐れもあります。動くに動けなかったのです」
「なるほど。事情は承知しました。シスターは特に聖女クラリス様への想いが強いように思いますが、親しい間柄だったりするんですか?」
ここまでの情報を持っているなら、クラリスに近い人なのかと思ったので、ちょっと聞いてみた。
「いえいえ、私なんかはとてもとても...。私の父親が魔物に襲われて重症を負った時、何の対価もなく助けていただいたのです。そのお心に胸を打たれた私はすぐにクラリス様に仕えることを決意しました。ですが、クラリス様は『私と一緒にいるよりは、多くの困っている人の手助けをして欲しい』と、このクローツでシスターになるように導いて下さいました」
「とてもいいお話ですわ。クラリス様も喜んだことでしょう」
フィリア王女も、友達の聖女らしい振舞いが嬉しかったんだろう。ちょっとだけ声が高く弾んでいる。
「それからも聖女クラリス様はクローツに来る度に声をかけて下さいます。本当に私にとってはもう一人の女神様なのです」
「確かに。話を聞いていると女神エルピス様を祀った教会に仕えているというよりは、聖女クラリス様に仕えているように聞こえますね笑」
「ふふっ、本当ですね笑」
おーっ。
シスターが上品に笑った。
ウインプルで全体は見えないが、キリッとした顔がやわらかくゆがんだ。
「首都エルブライトにもあなたのようなクラリス派のシスターはいますか?」
「いるとは思うのですが、それについてはわかりません。ただ、エルブライトはエンデ教皇のお膝元でクローツとは訳が違います。表立っての意思表示は出来ないでしょう」
確かにそれもそうだな。
エルブライトでバレたら、処分される可能性だって十分考えられる。
「シスター、今日はご協力いただきありがとうございました。俺たちのことは内密にお願いします。俺たちもシスターのことは喋りませんので」
「いえいえ。他国の冒険者様にお願いするのもどうかと思うのですが、どうかクラリス様を救出して下さい。お願いします」
そう言って、シスターは深々と頭を下げた。
これは何とかせねばならんよな...。
ただ、クラリスを救出したところでクラリス派はその後どうするんだろう? 教皇の孫が聖女であるなら、その座を明け渡すとは思えない。
仮にクラリスをオルティア王国へ連れていこうとしたら、クラリス派は納得してくれるんだろうか。
ちょっと困った難問が出てきちゃったようだな...。
「わかりました。俺たちも全力を尽くします。
あと、最後にシスターのお名前を伺っても?」
「はい。私はアンナと申します。クラリス様にお会いしたら、よろしくお伝えください」
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