第219話 意思を持つ刀



俺は何事もなかったように、その剣の元へと近づいた。

よく見てみると、それは「剣」ではなく「刀」だった。


しかもボロボロだ。

明らかに状態は良くない。

気になったので鑑定してみたのだが、不思議なことに何も見えなかった。

どんどんと謎めいてくるな苦笑



『早く触ってもらいたけど今はダメ。お持ち帰りしてからね♥』


「…」



何だろう。

聞こえかたによってはかなり卑猥だ笑

刀だよな?



「おっ、何だ兄ちゃん。その剣が欲しいのか?」



両手で矢を抱えたおじさんが店の奥から戻りながら、俺に聞いてきた。



「何かこの剣が気になるんですよね。あまり状態は良くないみたいだけど、売り物なんですか?」


「あぁ。どっかの商人から買った剣なんだが、置いてるうちにどんどん状態が悪くなってしまってな。矢をいっぱい買ってってくれるんなら、その剣はおまけでやるよ」


「えっ、いいんですか?」


「そのまま置いておいてもしょうがないしな。ちょっと待ってな。一緒になってた鞘も持ってくるわ」



何だかんだで俺は、たくさんの矢と共に、半ば押し付けられるようにして謎の刀を手に入れてしまった。





俺たちはそのままリーズの街を出た。


本音を言えばもう1泊くらいしてゆっくりしたいところだが、聖女の状況が分からない以上は一刻も早くエピリシアへ行く必要がある。

とりあえずは国境を越えてから1番近くの大きめの街「クローツ」を目指すしかない。




『ねぇ、そろそろ魔物と出くわすからさー、あたしをここから出してー!!』


「…」



確かに俺のサーチにもちゃんと引っかかってるんだよなー。

魔物を感知出来るなんて、何なんだこの刀…。


まぁいいか。

この辺はあまり人がいないみたいだし、ちょっと出してみようかな。



「みんな。魔物が来るみたいだから馬車を止めるぞ。さっき買った剣を試したいから俺が先に出る」



俺は馬車を止めて降りると、すぐさま刀をアイテムボックスから取り出す。

ボロボロなのに大丈夫なのかなー。



『早くあたしに魔力をちょうだーい!!』



ん?

魔力を使うのか?

まさかの魔剣?

いや、刀だから魔刀か。


言われるがままに、刀の柄を握って魔力をゆっくりと流し込む。



『あぁ〜気持ちいい〜!!』


『ヤバい! この魔力ヤバい!!』


「んっ!!」



おいおい、ヤバいのはこっちだよ!!

どんだけ俺の魔力を搾り取るんだよ!!

でも、この感覚嫌いじゃないな笑


『えー!! ヤラシイこと言ってるー。今度の主はエロエロなんだねー笑』


えっ?

俺は何も口に出してないぞ?

心を読まれたのか?


『あー、そっか。知らなかったよねー。魔力を通して意思を伝えることが出来るんだよ。主が魔力を流してる間は、主の心も伝わってくるのー』


意思疎通が出来る刀か。

面白いな。

ボロボロじゃなかったらなー。


『何言ってるのー? もう完全修復されてるよー』


はぁ?


あ、ホントだ。


あんなにボロボロだった刀身が、今では魔力を纏って光り輝いている。




ファンタジーだなー。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る