第181話 女狐の依頼



「山菜を取ってきて欲しいのよ」



黒の受付嬢クレアさんは確かにそう言った。

山菜なんて誰でも取ってこれそうなもんだが、わざわざお願いしてくることからして、何か難しい理由があるんだろう。



「なぜ山菜を俺たちに?」


「まぁそう思うわよね。これには理由があるの。まずはそこそこ遠いところにあるということ。そして、その間にはオークやゴブリンの集落がたくさんある上、その集落を抜けてもその山には山賊もいるのよ」


「そこまでして山菜を取りに行くには、割が合わないということですね」


「そうよ」


「なぜクレアさんはそれを俺たちにお願いするんですか?」


「あなた達は3人だけど強いと聞いているし、今回の報酬でお金には困ってないでしょ? ランクアップ目的ならちょうどいい案件なのよ」


「なるほど。ギルドがそこまで山菜にこだわるのは何故ですか?」


「……ギルド長の大好物だからよ」



それまで凛とした感じで受け答えしていたクレアさんが、最後の言葉だけは俯いて恥ずかしそうに答えた。



「ふぅーん。私は最後のを聞いちゃったらどうでも良くなったけど、どうするシーマ?」


「俺は単純に山菜が気になるけどな。シェリルはどうだ?」


「山菜自体は市場にも流れてると思うけど、マッシュルームはあまりないわね…。もしかして、マッシュルームが目的?」


「そうなんです。情報では目的の山には、結構なマッシュルームがあると言われているのです」



マッシュルーム。

つまりはキノコ類だな。

出汁に使える。

そこにあるなら、取りに行かない理由はない。



「わかりました。行くことにします」


「本当ですか?」


「ただし、ギルドに全部は渡さない。そして、今すぐには行かない。それで良ければ依頼を受けますよ」


「もちろん、それでいいです。ありがとうございます!!」


「あと、山賊についてわかってることはありますか?」


「元Cランク冒険者が率いている『ソンブル』がその辺りにいるらしいという情報があるけど、山賊は他にもいるから確かではないわ」


「そんな…」


「どのくらいいるか分からないところに行くなんて大丈夫なの?」



セレナとシェリルが心配するのも無理はない。情報が不確かなほど危険度は高くなる。

でも、俺たちには共有スキルがあるし、フィデール以降はずっと魔力を魔石に入れ込むなどして鍛えてきたんだ。



「何とかなるんじゃないかな」


「シーマがそう言うなら…」


「私たちは付いて行くけど…」



そんな感じで、俺たちはギルドで情報を得るつもりが、依頼を押し付けられてしまった。


クレアさんにはもちろんだが、ギルド長にも恩を売っておくのも悪くない…そんなことを考えていた。





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