第4章 冒険 -王都編-

第105話 躓き



グランツを出発して数時間。

誰も口を開こうとしない。


特に理由はないのだが

御者席のシェリルも、俺もセレナも

何も喋ろうとはせずに景色を見ていた。

そしてそれぞれ考えていた。

これからのことを。



出発に先立って決めたことがいくつかある。

この先、王都近くまでは大きな街はない。

魔物との戦いを出来るだけ多くこなすために少し森に近いルートを進み、夜はバレそうにないところで家を出して宿泊する。

戦闘については、魔物を見つけ次第セレナが矢を放ち、シェリルが魔法で迎撃し、残りを俺が接近戦で潰す。

以上だ。



事前にアイラに確認したところでは、王都までのルートには基本的に強力な魔物はいないようだ。ただ、ゴブリンやオークなどの他に、平原が多いことから羊のようなダークシープや牛のようなレッドボア、まれにポイズンスネークなども出没するとのことだ。



「セレナ、右前方に2つの反応あったよ。シーマ、御者代わって!」


「わかった。準備するわ」


「よし。いいぞ。」



ん?何だあれ?

見たことないな。



「あれは、キラーラビット!!」



マジかー。

鑑定してみよ。



【キラーラビット】

ホーンラビットの上位種

推奨⋯Cランク

特徴⋯素早い、硬い角に注意


いきなり面倒臭いのと出くわしたなー。

この先大丈夫かな。



「セレナ、素早いけど狙えるか?」


「無理だわ。範囲魔法に切り替える!」


「シェリル、セレナに合わせてくれ!」


「わかった」



そう言ってる間にもヤツらは近づいてきている。



「ウォーターバレット!!」


「ストーンバレット!!」


「マジか!! 躱しやがった!!」



2人の魔法を素早く躱して、さらに近づいてくる。

でも、もう1回くらい魔法は撃てるな。


「セレナ、ウォーターカッターを膝くらいの高さで撃ってくれ! シェリルは飛び上がったところにストーンバレットだ!」


「ウォーターカッター!!」


「ストーンバレット!!」


「チッ!! 1体だけかよ」


ウォーターカッターに対し、飛び上がって躱したところまでは狙い通りだったが、ストーンバレットが当たったのは1体だけだった。

すり抜けた1体がこちらに向かってくる。



「俺が受けるから、シェリル隠密で頼む。セレナは傷つけたヤツを頼む」


「「わかった」」



俺は剣を抜き、キラーラビットを待ち構える。ヤツは素早く近づいてきて俺に向かって飛んできた。



「はやっ!!」


ギンッ


襲ってきた角を剣で何とか逸らしたが、思ってたよりも数倍早かったな。何とか動きを止めたいけど、どうすればいい?

角を剣で受けられないなら手で止めるか?

自信はないが迷ってる暇は無い。



またもやヤツが頭から突っ込んできた。


「ぐうっ!!」


俺は剣を離して両手で何とか受け止めたが、ヤツは掴まれた角を支点にして、足蹴りを放ってきて、左腕にモロに食らってしまった。


グサッ


「終わりだよ」



ふぅー。危なかったー。

シェリルがいなかったらヤバかったな。

そうだ、セレナのほうは?

セレナのいた方を見ると、

セレナはボロボロのキラーラビットを抱えてこちらに向かって歩いていた。

終わったんだー。



「シーマ大丈夫?」


「あぁ、腕を蹴られたくらいだけど、恐ろしく痛いな。どんだけ力あるんだアイツら苦笑」


「ヒール」


「ありがとうセレナ。痛みが引いたよ」


「ええ~、ボクにはお礼ないの? 助けてあげたのに」


「ハハッ、そうだったな。シェリルもありがとう。本当に危なかったから助かったよ」


「どういたしまして笑」



しかし、今回は勝ったからいいようなものの次勝てる保証はない。何か対策を考えないと。


何だか出だしから躓いちゃったな。




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