第104話 別れ
「あんた達、若いわね笑」
寝坊して朝食時間ギリギリに食堂に降りたら、シンシアさんに意味ありげに笑われた。
「あなたも若いですよ」って言いたかったがいろんなところから非難されそうなので止めておいて、別のことを口にする。
「エリオさん、シンシアさん。突然で申し訳ないんですが、俺たちはアイゼンの幻陽に呼ばれて王都に行くことになりました。今日までいろいろとよくしてくれてありがとうございました」
「なんだよ、行っちまうのか...」
何だろう。エリオさん、言葉とはウラハラに表情は全然残念そうには見えない。
「あらー、残念。昨日の連絡がそれだったのね。相手はAランクだもの仕方ないわね。エテルナに会ったら文句言っといて笑」
「ハハハッ、そうします笑」
「ところでアレは...もう無いわよね?」
「実は昨日の夜、時間があったのでお世話になったシンシアさん達のために作っておいたんですよ」
俺はそう言って、アイテムボックスからプリンを5個取り出してシンシアさんに渡す。
「ウゲッ!! まだあったのかよ...」
エリオさんの声が聞こえてきたが、シンシアさんも俺もそれを無視して会話を続ける。
「シーマ、ありがとう。嬉しいわ」
「またグランツに来たら寄りますね」
「えぇ、そうしてちょうだい。コレのためにもね!! どうせレシピを売るつもりはないんでしょ?」
「精龍亭のメニューですから」
「そうよね。バカなこと言って悪かったわ。それじゃ」
「「「お世話になりました」」」
挨拶をして風磨亭を出る。
何だかんだであまり泊まれなかったから今度はゆっくり来たいなー。
この後は、商会で馬車を借りて皆さんに挨拶しないと。
商会に着くと皆さんがいた。家ではなくこちらのほうがいいと思ってのことだろう。その辺の気配りはさすが商人一家だなって思わせてくれる。
「ステラさん、昨日はいろいろとありがとうございました」
「いえいえ、こちらも『焼鳥』だったかしら? 楽しませてもらったわ」
「ん?! 何だ昨日何かあったのか? 『焼鳥』とはなんだ?」
「ロナルド、それは私が後で説明いたしますわ」
「シーマ、これは頼んでいるポーション代だ。取っておけ!」
ロナルドさんから手渡されたのは大金貨1枚だ。
はっきり言って多い。どんだけ買ってくんだよ。
「えっ?! ポーション代にしては多くないですか?」
「ハッハッハ、半分は俺からの餞別だと思えばいい。使い方は任せる」
「なるほど…わかりました」
そういうことか。
これは言わば軍資金だ。
これを使って仕入れて卸して利益を得ろってか。商人の考えそうなことだ笑
「あと、冷蔵の魔道具も馬車に積んでおいた。代金はいらないからな。見ておいてくれ」
裏手に行くと既に馬車が用意されていた。馬はもちろんシェスターだ。向こうもこっちを見て鳴いているから、ちょっとは喜んでくれてるといいけど。
魔道具も置いてあった。アイテムボックスに入れちゃいたいけど、執事や侍女さん達の手前それは出来ない。しばらくはこのまま走るしかないな。
「確かに魔道具も確認しました。高価なものをいただきありがとうございます。その分お返し出来るよう務めを果たします」
「うん。いい心掛けだ。それじゃシーマ、シェリル達を頼んだぞ!」
「はい。お任せ下さい。ステラさんもレオンさんもお元気で」
「シーマくんが元気をくれたから大丈夫よ」
「いろいろ世話になったねシーマくん。また今度ゆっくり遊びに来てね。最後に、あのバスタ料理の名前を聞いてなかったんだけど...」
「あれは『ペペロンチーニ』と言います」
「それじゃ皆んな元気でねー!」
シェリルの言葉を最後に馬車は走り出した。
俺たちはもちろん、ルート商会の皆さんも手を振り続けている。
いい街だったな、グランツ。
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