第5話 宿屋のこと
「そうよね。気になるだろうから話しておくわ」
「あぁ」
「まずシーマが気を失ってたのは2日間ね。風の日に気を失って今日は土の日だから」
「2日間も…」
この世界の一週間は六日間だ。
火風水土光空と魔法属性のように分かれている。
ちなみに1日24時間と1年12ヶ月は変わらないが、1ヶ月は30日に固定されている。
季節も黄・青・緑・白と、4つの色で別れていて、今は黄の季節だから春夏秋冬でいえば春に当たるのだろう。
「おじさんたちの宿屋については、手伝ったことのある私の両親が…。でも、常連さんが気を利かせてくれて、『食事なしで構わないから』って言って、いろいろと助けてくれたみたい」
「そうなのか…。ガンマおじさん、リーザおばさんはもちろん、お客さんたちにも迷惑かけちゃったな…」
セレナの両親であるガンマとリーザは、実は随分と若くて30台半ばだが、余裕で20代に見える。
普段は畑仕事などをしているが、俺の両親が宿屋を始めた頃から親しくしてくれて、忙しい時などは何度も手伝ってくれていた。
常連さんとはたぶん元冒険者仲間のフォルティスさんたちのことだろう。Aランク冒険者で、この街に来たら必ず泊まってくれるし、僕が冒険者になるって時もいろいろと世話をしてくれた。
「こんな状況だもん。仕方ないよ」
「そうは言っても、俺の家のことだからね。申し訳なく思ってる」
「これからどうするの?」
「まずは家に帰って、みんなに挨拶しないと。もう大丈夫だよって」
「まだ目が覚めたばかりじゃない! 無理しちゃダメだよ!」
ベッドから起き上がろうとする俺を、押さえつけるようにセレナが抱き着いてきた。ほんのり甘い香りがして、もう少しこのままでもいいかなって思ったけどそうもいかない。早く帰らないといけないからな。
「ごめんセレナ。絶対に無理はしないから家に帰らせて。お願いだ」
「そこまで言うんだったら、神官に聞いてみるよ。そこで動かないで待ってるんだよ」
そう言うやいなや、セレナは俺から離れてこの部屋を出ていった。
セレナは光属性の初級魔法ヒールを使えるってこともあって、教会関係者とも面識があるから何とかなるかもしれないな。
これからどうするのか。
実は答えなんてとっくに決まってた。
宿屋をほっぽり出して冒険者を続けるわけにもいかないから、冒険者は休業して、俺1人で宿屋をやっていくことにした。
俺が引き継いだことなんて少ないかもしれないけど、両親が俺に残してくれたものを大切にして、これからもそれらと共に過ごしていきたい。そう思えるようになった。
不安は尽きないけど、歩き出さないと前へは進めない。
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