歩道橋。


 横断歩道が無い道の近くには、歩道橋があることが多い。


 車を避けて橋を渡り、反対側へ行くときに使うものだが・・・


 道を歩いていると、なんとなく歩道橋が目に入った。


 そして、カートを押したおばあさんが、そのカートを重そうにして持ち上げて階段を登ろうとしていた。


 その様子が大変そうに見えたので、俺はおばあさんを手伝うことにした。


「大丈夫ですか? 手伝います」

「ありがとうね。助かりますよ」


 おばあさんと二人でカートを持ち上げ、階段を登る。橋を渡り、また二人でカートを持ち上げて階段を降りようと振り返る。と、おばあさんがいなくなっていた。


「へ? あれ? おばあさん?」


 きょろきょろ辺りを見回してみるが、俺の後ろを歩いていたおばあさんは、忽然こつぜんと消えてしまった。


 また橋を戻っておばあさんを探すが、影も形も見当たらない。


「なにしてんだお前」


 と、そこへ幼馴染が通りがかった。


「いや、おばあさんが」

「ああ、歩道橋のばーさんな? 知らねーの? 割と有名な話だぞ。ほれ、あれ」


 幼馴染が指差したのは、歩道橋の踊り場の隅にひっそりと置かれた、萎びた花の差してある空き瓶。


「え?」

「結構前に、事故があったんだよ。この歩道橋」

「いや、だって俺……」

「あのばーさん、ずっと繰り返してンだよ」


 なにを? と、聞くのはやめた。


「えと・・・帰ろうか」

「おう、行くぞ」


 俺の幼馴染は、視える人だ。


 偶に、普通の人でも視えたり会話したりもすることがあるらしい・・・

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