人混み。


 人混みを歩いていると、人にぶつかったりすることがある。誰でも一度は経験することだ。


「あ、すみません」


 誰かにぶつかって、謝った。


 すると、相手がニヤリと笑った気がした。


「?」


 普通は、明らかに自分側に非があるか、もしくは相手側がアレな人じゃない場合以外、お互いに「すみません」で別れて済む筈だ。


 ぶつかった人と初対面ではなく、知り合いだった場合などは例外だが。


 そして無論、俺はこの誰かを知らない。


 なのに、なぜかその『誰か』は、いやな感じの笑顔で俺をニヤニヤと見下ろしているようで・・・


「痛ぇじゃねーかこの野郎!」

「くはっ!」


 ドンッ!と、横から体当たりをされた。


「なにするんだよっ!? 痛いのはこっちだよっ!」


 幼馴染の声に、痛いと返す。と、


うるせぇ、このボケっ! 足止めンな!」


 バッと手を強く引っ張られて、そのまま幼馴染がずんずんと歩き出す。


「ちょっとっ、脇腹痛いんだけどっ?」


 しばらく歩いて、速度が緩んだので文句を言う。


「あん? 手前ぇ、ぼさっとしてンなよな? 性質たち悪ぃのお持ち帰り・・・・・する気かよ」

「へ?」

「人混みにゃ、割と高い確率で混ざってンだよ」

「・・・ナニが?」


 正直、聞きたくはない。けれど、聞かないのも、やっぱり怖い。


「そりゃあ、アレだろ。認識してくれる奴・・・・・・・・に、いて行くような、ナニか・・・、だろ?」


 俺の幼馴染は、視える人だ。


 そして、偶に俺も・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る