第3話 砂漠の町。
砂漠の中にある町コモザは砂漠を超えようとする旅人達は必ずここに立ち寄ると言われるほど、かなり知名度の高い町だった。
そして、特に有名なのが壁だ。
この町を砂だけでなく盗賊達からも守る強固な壁は、目を見張るほど高く、かなり遠くからでも確認することができる。目印など無い砂漠においては、旅人達の道しるべにもなっていた。
壁に見劣りしない大きな門を通り抜けると、喧噪が訪れた人達を包み込む。道の両側には色々な露店が立ち並んでいて、まるで祭りのような賑やかさに旅人達はさらに驚かされるのだ。この町は旅人の為にあるような町だった。
「すごい店の数だな。全部覗いてみたいが、日が暮れそうだ。おい。シア、この人混みだ、殿下を見失うなよ」
興味深々な様子で辺りを見回していたギルがシアに声をかける。
「誰に向かって言っているのです? あなたと一緒にしないでください。それから、殿下ではなく、フレイア様とお呼びしてください」
ピシャリと返されると、ギルは大げさに広い肩をすぼめて見せた。そんな二人の様子に、フレイアが笑みをこぼす。その笑顔を目にしたシアはすぐに穏やかな表情に変わった。
おそらく、この三人はこのようなやり取りをしながら旅を続けてきたのだろう。
人の流れに身を任せながらも、ギルとシアは小さなフレイアをしっかりと守りながら歩いていた。彼らは日持ちする食べ物を重点的に見ていく。
この町を過ぎれば次に向かう町まで、しばらくは過酷な砂漠の旅が待っていた。道中オアシスが幾つか点在しているとはいえ、その前に十分な休息と準備をする必要があったのだ。
「……かなり、うざいですね」
突然、シアが呟いた。
「やはり、気づいていたのか……」
ギルが大げさに空を仰ぐ。
この町に着く少し前から、三人は後をつけられていた。シアがずっとピリピリとした危険なオーラを出し続けていたのはそのせいだったのだ。とうとう我慢が出来なくなったのだろう。
「! フレイア様、どうされたのですか?」
慌てた様子でシアが片膝を付く。フレイアがシアの外套の裾を掴んで、不安げに見上げていたのだ。
シアは堪らない様子で、包み込むように小さな体を抱き寄せた。
「こんなに、怯えられて……。大丈夫です。この私にお任せください」
そう告げると、シアはゆらりと立ち上がった。その目には不穏な光が灯っている。
「ギル、フレイア様をお願いします。……今すぐに、殺(や)ってきます」
「違う! 殿下は、おまえが放つ不穏な雰囲気に怯えているんだよ! そこは、気づけ!」
殺気をみなぎらせ今にも剣を抜いて駆け出しそうな連れの腕をギルは急いで掴んで引き止める。振り向いたシアの顔は、かなり不服そうだ。
だが、今はシアの心情にかまっているわけにはいかない。こんなところで面倒事は避けたかった。
ギルは心の中で盛大に溜息をつく。
シアは通常であれば思慮深く、冷静沈着な男だ。
だが、この小さな主のことになると、理性のたがが外れるどころか、一気に吹き飛ばしてしまうのだ。その暴走を止めるのがギルの役目のようになっていた。
実はギル本人は気付いていないのだが、この男は適当にみえて意外と面倒見の良いところがあった。
「シア、いつまで殿下を立たせておくつもりだ? それに、俺は腹が減っている。とりあえず、どこかの店に入って何か食おうぜ」
シアの気をまぎらわそうと、ギルが明るく提案する。
「……そう、ですね。フレイア様の疲れを取るのが先決でした。では、あの角の店にでも入りましょうか?」
すぐに気持ちを切り替えたらしく、シアはすぐにフレイアの体を軽々とその腕に抱き上げた。
そして、器用に人を避けながら店に向かって歩き出す。その姿を眺めながら、ギルはやれやれと右肩を揉む。
だが、油断なく鋭い視線を巡らせることは忘れていない。差し迫った危険がない事を確認すると、ゆったりとした足取りで二人の後に続いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます