第4話 食事。

 目当ての店はかなり繁盛していた。席が無ければ他の店を探すつもりでシアとギル、フレイアの三人が店の前まで来ると、丁度食事を終えた客が数人出て行き、運良くすぐに席に案内されることとなった。 


「いらっしゃい! 何になさいま……す──」 


 フードを脱いだシアの姿を見て、注文を取りに来た店の若い女の動きが止まる。


「スープとパンと飲み物を三人分、それと隣の席の方と同じ肉の料理を二皿。あと、この店のお勧めの料理があればいくつかお願いします。もし、新鮮な果物もあるのでしたら、持ってきてください」


 シアはすぐさま料理を注文する。

 だが、女は返事も忘れてシアの顔を凝視したまま突っ立っていた。それは仕方がないことだった。性別を超えたシアの美貌には、免疫のない者達はどうしても目が釘付けになってしまうのだ。

 まるで絵画から出て来たような整った顔立ち、やわらかな白銀の長い髪は後ろで一つに編んで垂らし、極寒の湖を思わせる薄青い瞳を見れば、まるで物語に出てくる冬を支配する妖精王のようだ。

 そんなシアの風貌を初めて目にした者はみな似たような反応を示す。

 だが、シア本人はどんな時でもフレイア以外の者を気に留めることはない。今も固まったままの女を見事に放置したまま、すでに甲斐甲斐しくフレイアの世話にいそしんでいた。


「おい、酒を一つ追加してくれ」


 ギルの声でやっと我に返った女は、慌てて注文を再度確認すると顔を赤らめたまま走り去って行く。

 すぐに料理は運ばれてきた。


「……さすがに、奴らは店の中まではついて来なかったな。案外俺達の思い過ごしだったのかもな」


 酒を旨そうに喉へ流し込みながら、ギルはさり気なく店内を見まわす。


「いいえ、あの嫌らしい視線はフレイア様を狙っていました」


 鋭い眼差しをギルに向け、シアは言い切る。


「嫌らしい……って、盗賊ではなく、人攫いだったのか?」

「街道で私達からフレイア様を奪う気だったようですが、隙がみあたらなかったのでしょう。この町まで、のこのこ付いて来ましたからね」


 そう言って、シアは湯気が立つ焼きたての肉にナイフを突き立てた。


「お、おい! 怖いって!」


 自分の体に腕を回し、わざと大袈裟に震えるギルを凍らせそうな目で黙らせ、シアは食べやすく切った肉をフレイアの皿へ取り分けていく。


「さらに、今は窓際の男と奥の男達がフレイア様に見惚れています。非常にお可愛いですからね。仕方がないこととはいえ、良い気はしません。食べ終わったらすぐにこの店から出ましょう」

「おまえ本気で怖い……」


 げんなりと呟くギルに、ふんと鼻で応じ、シアは肉汁で汚れてしまったフレイアの口元を拭う。


「シア、俺にも肉を取ってくれ」

「自分で取って下さい」

「ちぇっ」


 ギルは子供のようにすねた声を漏らし、まるでふてくされたように肉を摘み上げると、口の中に放り込んだ。そんなギルの姿を、フレイアはニコニコと微笑んで見ている。フレイアが楽しそうにしているので、シアは再び穏やかな表情に戻っていた。

 だが、そんな二人の姿をギルは酒で喉を潤しながら思慮深く眺めるのだった。


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