第2話 旅人。
乾いた熱い風が、砂の大地を吹き抜けて行く。
すらりとした長身の男が二人、目の前に聳(そび)え立つ強固な壁を見上げて立っていた。見渡す限り黄色味を帯びた砂だけの世界に、人が作り上げた白い防護壁が異彩を放っている。
「ほおぅ。これほど高かったとは……。見ると聞くとでは大違いだな! 凄いと思わないか? なあ、シア?」
僅かに背の高い方の男が、弾んだ声で隣に立つ連れの男に話しかける。その声はやや低めだが、若々しく、力強い。
「ギル、あまり大きな声を出さないで下さい。目立ってしまう」
『シア』と呼ばれた男は、大きな声で話しかけてくるギルを、目深くかぶったフードの下から冷ややかに睨んだ。その瞳は薄青く、雪解けの澄んだ水を彷彿とさせた。
冷たい目で睨まれたというのに、ギルはまったく気にする様子は無い。口元に不敵な笑みを浮かべ、目にかかる黒髪を左手で無造作に掻き上げた。髪と同じ黒い瞳が好奇心で輝いている。精悍で整った顔立ちは、笑みを浮かべるとどこか子供っぽく見えて、どうにも憎めない男だった。
二人の年の頃は、十代後半から二十代前半と思われた。少年から青年へ変わっていく時期独特のほっそりとした体形と、しなやかな体の動きがそれを示している。
シアの目立ちたくないという願いは叶う事はなかった。彼らはすでに目立っていたからだ。
二人はどちらも地味な灰茶色のフード付きのマントに身を包み、ありふれた旅装であった。
だが、彼らが放つ洗練された雰囲気を隠すことができていなかった。品のある身のこなしに、整った容姿、腰に帯びた立派な長剣が、彼らがただの旅人ではないことを証明していた。
一つため息をつき、シアは視線を下げた。その途端、綺麗だが冷たい印象の目がとても優し気に細められる。
「フレイア様、もう間もなく町に着きますよ。よく頑張られましたね」
長身の男達の影で気付かなかったが、そこには六歳ぐらいの小さな子供が大人しく立っていた。フードから覗く大きく澄んだ瞳は宝石のサファイアのように青く、顔は人形のように愛らしい。
稀に見る美しい少女だ。
そりが合わないように見えた男達だったが、少女に対してはぴったりと息が合った仕草で、それぞれがフレイアの小さな手を取る。
そして、人の波に溶け込むように、町へと通じる大門へと向かって歩き出したのだった。
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