フレイア
待宵月
第1話 出会い。
山間の道の脇で、旅装の女が横たわっていた。かなり具合が悪いことが見ただけで分かるような状態だった。その傍らには十歳ぐらいの少年が蹲っている。恐らくこの二人は親子だと思われた。二人の前を幾人もの人々が通り過ぎていく。
しかし、誰一人として足を止め、彼女達に手を差し伸べる者はいなかった。西から来た一台の立派な馬車もやはり彼女達の前を通り過ぎて行く。
だが、しばらく進んだ先で馬車が突然止まった。
「どうしたの? おなか、いたいの?」
近づいて来た小さな足音と共に頭上から聞こえてきた幼い声に、少年は緩慢な動きで顔を上げた。虚ろな瞳が目の前に立つ幼い少女へ向けられる。
少女は光沢のある高級な生地で作られた白い服を身に纏う三歳ぐらいの幼子だった。少年のカサカサに乾燥しひび割れて血がこびり付いた唇が僅かに動いた。
「……た、助けて。……母様を、助けて」
今までに何度も訴え、その度に絶望に突き落とされてきた言葉。諦めていたはずだった言葉が少年の口から零れた。通常なら幼子に助けを求めるなど馬鹿げている。
だが、少年には突然目の前に現れた白い衣装に身を包んだ金色の髪の幼子が天から舞い降りた天使に見えたのだ。
「フレイア様!」
少女を追いかけて、血相を変えた二十代の青年が駆け寄って来る。
「キース! キース! はやく、きてっ!」
振り向いた少女はパタパタと手を振り青年を呼んだ。
「! これは……」
少年と母親の姿を目にしたキースは言葉を途切れさせ、目を見張る。その姿を見てフレイアと呼ばれた幼子が不安そうに彼の服の裾を引っ張った。キースは膝を付き、フレイアに視線を合わせる。
「出来る限りの事をいたしましょう」
フレイアは真剣な顔でこくりと頷いた。
目の前で起きていることが信じられないのか、少年は薄汚れ痩せて窪んだ目で呆然と二人を見上げている。そんな少年の両肩にキースは優しく手を置いた。
「母君を一人で守って来たのだね。よくぞ生き抜いてきた。待っていなさい。すぐに戻って来るから」
キースはすぐに立ち上がるとフレイアを抱き上げ急いで取って返し、馬車に乗って戻って来た。
そして、旅の親子を乗せると、すぐさま馬車を西へ向かって走らせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます