第35話 幻想DIY(9)
大きく開いた天窓から丸い月が柔らかく、優しく浴場の中を照らす。
アケは、優しいお湯の中に身体を浸し、安息の息を吐く。
半年ぶりのお風呂。
しかも自分と友達と一緒に作ったお風呂。
そう思うだけで気持ち良さが倍増する。
アズキも楽しそうに湯船の中を泳いでいる。
本当は、ウグイスとも一緒に入りたかったのだけど鳥の唐揚げを1羽分平らげたら眠くなったと言ってカワセミに担がれてそのまま家に帰ってしまった。
明日、一緒に入ろうねと寝ぼけ眼で言っていたが果たして覚えているだろうか?
アケは、じっと月を見る。
月を見ながらお風呂に入るのも初めてだが、こんなに開放的な気分で入るのも初めてだ。
白蛇の国に住んでいた頃、お風呂はただの礼儀作法、汚くないように入るだけで気持ちいいなんて二の次だった。それが今は気持ち良さに身を浸し、汚いと、臭いと思われたくないから入っている。しかも、嫉妬で意地になって風呂を作ってしまう始末・・。
アケは、急に恥ずかしくなり、顔を鼻まで沈めてぶくぶくと音を立てる。
アズキが心配そうにこちらを見てる。
アケは、大丈夫だよと言う変わりに頭を優しく撫でた。
その時である。
「これが風呂か」
聞き慣れた声と共に湯船が弾けるように飛沫が舞い上がり、大きく波打つ。
アケの蛇の目の口が大きく、丸く開き、頬がお湯の熱に当てられた以上に赤くなる。
飛沫と波を上げた主、ツキは、濡れた髪を掻き上げる。
「しゅ・・・しゅしゅしゅ主人⁉︎」
アケは、動揺に声を震わす。
「ツキだ。何をびっくりしている?」
ツキは、眉を顰める。
お湯に濡れたツキはいつも以上に艶があり、透明なお湯の下に見える裸体が逞しく、美しくてとても凝視出来ない。
アケは、反射的に蛇の目を両手で塞ぐ。
アケの様子にツキは眉を顰める。
「普通、逆なのではないか?」
「あ、いや、そう、えっ・・・」
アケは、動揺でまともに言葉が出ない。
「それに見るのは初めてではないだろう」
その言葉にアケのあたまはさらに爆発した。
動揺を通り越して混乱するアケを見て、ツキは愉快そうに笑みを浮かべる。
そしてそっと後ろから抱きついた。
お湯とは違う優しい温もりと固い感触、そして変わらない甘い花の香りにアケの思考が一瞬、停止する。
そして何が起きたのか理解した瞬間、心臓が破裂しそうなくらいに連打して鳴り響く。
「・・・すまなかったな」
ツキの口から出た言葉をアケは理解することが出来なかった。
主人が謝っている?
なんで?
「正直、今だにしっかりとなんでそうなったのか理解が出来ていないのだが、俺の行動と言動がお前を不安にさせてしまったのは分かった。俺の愚鈍な振る舞いで悲しい思いをさせてしまったこと、許して欲しい」
そう言ってツキは、抱きしめる手を強めた。
「そんなこと・・・」
アケは、ツキの逞しい腕に手を添える。
「私だってくだらない事で主人に・・ツキに嫌な思いをさせちゃった。ごめんなさい」
ツキの手がアケの頬に触れる。
アケの頬がさらに赤く、熱くなる。
ツキの唇とアケの唇が重なる。
湯気が天井に昇り、雫となって舞い戻る。
アズキの泳ぐ音が静かに響く。
ツキとアケの唇が離れる。
「これで仲直りだ」
ツキが優しく微笑む。
アケの蛇の目が揺れる。
「仲直り・・だ」
アケの頭がツキの胸に落ちる。
「・・・アケ?」
ツキが呼びかけるも返事がない。
額の蛇の目がクルクル回る。
完全にノボせていた。
「おいっアケ!しっかりしろ!」
ツキは、必死に呼びかける。
アケは、蛇の目をクルクル回しながら「仲直り・・だ」
と呟いていた。
オモチは、リビングの大窓を開いてリンゴを齧りながら騒がしい浴場を見ていた。
「イチャイチャ・・」
「してますねえ」
いつの間にか隣に来ていた
「嬉しそうだな」
「ええっとっても」
「だって、この屋敷にまた人がたくさん住んでくれるようになるんですもの。嬉しくなりますわ」
オモチは、リンゴを齧るのを止め、右頬を掻く。
「たくさん住んでくれる?」
「ええっあの2人には頑張ってたくさんのお子を産んで頂かないと。ああっ今から楽しみだわ」
オモチは、そんな
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