三 水壁の向こう側(前編)

 バスはせきえん市街しがいけていく。

 たくさんのトラムとくるま地上ちじょう車道しゃどうしている。

 VIRGOヴィルゴ輸送ゆそう

 食糧しょくりょう輸送。

 燃料ねんりょう輸送。

 給食きゅうしょくセンターの輸送車はこん年度ねんどから、試験しけんてき地下鉄ちかてつ貨物かもつ輸送をはじめた。

 学校がっこう直結ちょっけつの地下鉄出口でぐちには、貨物ようエレベーターもある。

 ちゅう学校の給食はさく年度から試験導入どうにゅうされて、今年度からは本格ほんかく導入。

 うわさでは、自動じどう運転うんてんおおがた車の遠隔えんかく操作そうさを「ハッキング」するはんぞく世界せかい主義しゅぎ団体だんたい犯行はんこう声明せいめいぶんしているらしい。


 バスの前方ぜんぽうに、くろはしえて来る。

 いろ看板かんばんには、「これより赤円市外層がいそう」とある。

 <こちらは、竹狩たけかり遠足えんそく送迎そうげいバスです。

 続こくどうNエヌ一一号線ごうせん姉妹しまいゲート方面ほうめんひだりだい車線しゃせんは、現在げんざいバス専用せんようレーンとなっております。

 専用レーンを走行そうこうちゅうくるまはただちに、みぎの第二・第三・第四・第五・第六車線へ車線変更へんこうしてください>

 <こちら、VIRGO第二作戦さくせん行動こうどうちゅうのため、車線変更は出来ない!>

 <こちらは、竹狩遠足送迎バスです。

 ただちに、車線変更をしてください。

 竹取たけとり週間しゅうかん妨害ぼうがい行為こういとみなし、治安ちあん維持いじきょく通報つうほうします>

「あーあ、VIRGOの職員しょくいん始末しまつしょもんだなー」

「それをうなら、こんな学生がくせいしょうわすれたアンタは停学ていがく処分しょぶんじゃな~い」

 タンサくんは忘れものをしたショックからなかなかなおれずにいるのだろう。

 ネッサちゃんに言いかえすことく、はやきしてつかれたせいもあって、二度にどモードに突入とつにゅうしてしまった。


 橋をわたっていると。車窓しゃそうにはキラキラとひかかわのようなものがひろがっていた。

 橋のしたは、本物ほんものの川がながれているわけでは無い。

 人工じんこうの川。たい青銀せいぎんちく用水ようすい激流げきりゅう)の「水壁すいへき」。

 遮音しゃおん転落てんらく防止ぼうし透明とうめいなパネルで、用水路はじられている。


 VIRGOの通信つうしん端末たんまつOVオヴでは無く、おとうさんとおかあさんがってくれた通信端末ENエン点滅てんめつしている。

[キュウ:おちゃん、どうしたの?トラムで寝坊ねぼう

 車庫しゃこはいっちゃった?

 学校、う?]

FUKKAフッカ遅刻ちこくしているやつ何人なんにんもいて、続国立つちおうぎ中学ちゅうがくだけ出発しゅっぱつおくれている。小学生しょうがくせいのバス、そろそろ出発しゅっぱつか?]

[キュウ:はやめに、もう出発した。ひがしはしっこの、姉妹ゲートパーキングでトイレ休憩きゅうけいして、エウロパまで行くよ。]

[FUKKA:をつけろよ。]

 お兄ちゃんは、続国立土扇中学三年生。

 赤円市ないの続国立中学校は巨大きょだい規模きぼこう六校だけ。

 Vブイ中学校をのぞいて、五校だけしか無い。

 お兄ちゃんは、続国立西にしくら小学校に選抜せんばつされて、土扇中学校へ進学しんがくした。

 八年二か月も、平日へいじつあさゆう、トラム東廻とうかい線と地下鉄西扇さいおう線の通学つうがくをしている。

 そして、今日きょうのお兄ちゃんは。

 竹林ちくりん強歩きょうほ大会たいかいで、灰原はいばらゲートからガニメデでおろろされて、エウロパまであるく。

 たしかに、わたしたちは駆除くじょ活動かつどう範囲はんいかさなっている。

 でも、お兄ちゃんとわたしたちが合流ごうりゅうすることは無い。

 お兄ちゃん、一泊いっぱく二日ふつか。わたしたち小学生はまらずに、日帰ひがえり遠足。

 わたしたちが赤円市内にかえったあと、中学生はガニメデとエウロパの境界きょうかい付近ふきん野営やえいする。

 一年はわたしも中学生。

 竹林強歩大会なんて、もっといやだ。

 でも、竹狩遠足もずっとずっと嫌だ。


 お兄ちゃんとチャット中に、端末をげられそうになった。

 咄嗟とっさに、シャットダウンは出来なくて、緊急きんきゅうロックをかける。

 すぐに、チャット画面がめんは。左半分はんぶんのぞ防止ぼうし警告けいこく表示ひょうじわった。もう、右半分は、防犯ぼうはんカメラ機能きのう作動さどうして、録画ろくが中の動画どうがを表示している。

 端末を取り上げたのは、通路つうろあるいていた大人おとなおとこひとだった。

 この人の服装ふくそうは、「硝子がらすばち小」指定していジャージ(大人サイズ)の色。

 でも、どのクラスの担任たんにんふく担任かはわからない。

「遠足の移動いどう時間じかんまでチャットか?

 いろいろ連絡れんらくるべき相手あいてがいるのは把握はあくしている。

 しかし、遠足はあそびじゃないんだ。

 自粛じしゅくしろ」

 もう一度、端末にさわられた。

 今度こんど抵抗ていこうしたけど、没収ぼっしゅうされてしまった。

 なんで、わたしだけ没収なんだ……。

「団体行動は基本きほん中の基本だから、『遠足のおらせ』にくことじゃ無い。

 最終さいしゅう学年がくねんとして自覚じかくて」

 このこわかおをしておこっている先生の名前なまえは……くびからぶらげている学校職員しょくいんIDアイディーでは「朝見あさみ 風磨ふうま」。

 朝見先生は通路つうろったまま、うごかない。

 わたしが通信端末ENをOFFにオフするひまも無くうばわれたまま、説教せっきょうしながら直立ちょくりつ不動ふどうでいるつもりだ。

ってください。

 通信端末の利用りよう操作そうさきんじていません」

あまいんですよ、五年五十九くみは。

 遠足中も竹を狩らないで、ENに夢中むちゅうになるのがに見えています」

「そうでしょうか?

 窓塚まどづかさん。

 お兄さんとチャットしてたのよね?」

「……はい。兄の学校のバスが出発しないので、今朝けさはあっちの学校で抗議こうぎ活動でもあったんじゃないかとおもったんです」

家族かぞくとやりりしているなら、最初さいしょからそう言え。

 まぎらわしい態度たいど姿勢しせいのせいだ。

 反省はんせいしろ」

 でも、没収したまま端末を返却へんきゃくしてくれない。


反省はんせいして、竹がるんですかー?」


 寝ていたはずのタンサ君がわりと大きなこえで、ハキハキとはなし始める。

「『朝見先生。

 二階の子たちがENで、ゲームし放題ほうだいみたいですよ。注意ちゅういしにかなくていんですか?

 まさか、報告ほうこくしょに窓塚さんを注意ちゅういしたって点数てんすうかせぎをしたくて、注意ちゅういしたんですか?

 そうですか。

 ぜひ、降車こうしゃしてください。

 おさまのおねがいでは無く、治安維持局いんがおねがいしていますよ』」

 朝見先生は端末を通路つうろにポイてして、最前さいぜんれつへともどっていく。

 でも、最前列の座席ざせきこしかけないで、バスの乗降じょうこうぐち内側うちがわに立って、何かしている。


「タンサ君、よく気づいたね」

おれごうから送信そうしんされて来た、チャットのぶんんだだけー。

 五郷、ひと使づかいがあらいぞー」

「VIRGOの護送にたいして、車線変更を指示しじする馬鹿ばかはいないよ。

 治安維持局の車がうように車線変更をしていたからね」

 朝見先生がバスに何かをしたらしい。

 手動しゅどうボタンで、緊急きんきゅう停車ていしゃしたバス。

 朝見先生はバスのドアをどうにかしてけてび出して、後続こうぞくのバスにかれそうになった。でも、まらずに、はしつづけている。

「うわっ、げた!」

 <不審者ふしんしゃが緊急ボタンをしました。

 火災かさい爆発ばくはつ心配しんぱいはありません。

 安全あんぜん確認かくにんされるまで、おちくださいいいいいい>


 遠隔操作をしているバスセンター通信つうしん指令しれいしつから連絡れんらくはいる。

 <こちら、赤円市バスセンター通信指令室。

 学生さんがスイッチ押しちゃいました?>

 バスの中にVIRGOの制服せいふくた人たちがりこんで来て、自動走行を表示しているモニターに触って、直接ちょくせつ操作をしている。

「こちら、VIRGO第二課。

 治安維持局から逃走中の学校職員が押しました」


逃走とうそうしてる!逃走してる!」

なに?何?」

「朝見先生が治安維持局からげた!」

「うわっ、十七組の担任でしょ?

 どうすんの?

 六年団にも、活動かつどうがいたってこと?」

 定刻ていこくよりも十分も早く出発出来たのに、七分もバスのさい起動きどう時間じかんがかかってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る