第16話:僕の小説は二次通過ができない
「一言で言うなら『運』ですね」
放課後のラノベ研究会の部室に来て西村綾香先生が言った。
「はぁ……。でも、そんな……」
僕の小説は最近では公募に応募したりWEB小説のコンテストに参加したりして一次審査を通ることが出てきた。
じゃあ、次は二次……と思うのは自然なことだろう。ところが、全然引っかからないのだ。
僕の執筆スキルがポンコツなのか。
落ち込んでいたときに、たまたま部室に来た西村綾香先生が僕に言ったのがさっきの「運」だった。
「公募だと、一次では1000作とか2000作とか来るわけです。WEBだと6,000とか7,000とか……。出版社の担当の人がたくさんいたとしてもそれを全部読むのは大変です。多分不可能じゃないですか?」
「すごい数ですからねぇ」
「そこで、バイトも投入します」
「は、バイト?」
せっかく本気で書いた小説をバイトが判断してるってこと?
「まずは、規定に適合していない作品を落とします。これは字数を見たりするだけだからアルバイトでも可能です。WEBの方なんて、あらすじだけである程度判断できます」
「なるほど」
「起承転結があるかとか、基本的なお話ができているかくらいまでは一次審査かな。これくらいは読めば分かるからアルバイトでもできる」
「そうですか……」
そうは言っても……。
「そのアルバイトは誰でもいいわけじゃなくて、作家の卵とか、普段から編集部でアルバイトしている人が多いみたいですね。あ、もちろん会社や部署によって違うところもあるわよ?」
たしかに、10万文字を読もうと思ったら数時間はかかる。冒頭を読んでダメだと思ったらやめたとしても、1日に読める量は3から5作がいいとこだろう。
ダメなのを早々に切ったとしても10作読めたら早いと思う。
それでも、7,000作あったら……。到底読み終われない。その辺はしょうがないんだろうなぁ。
「だから、どんなバイトかは運次第。何度も投稿していると段々と名前を憶えられてくることがあります。そうすると過去の作品の影響で『いい』と思ってもらえる半面、その人に合わないと『ダメ』と思われてしまい不利になることだってあるんです」
そんなことまであるんだ。
「最終審査では、出版はもちろん、コミカライズ、アニメ化、ドラマ化、映画化などメディアミックスも考えます」
そうか、ビジネス的に考えるとそこまで考える必要があるのか……。
「タイアップが取れやすいテーマもあるでしょう。これまでに例のないテーマは敬遠されます。見慣れない文体もそうです」
「じゃあ、それは避けた方がいいってことですか?」
「ヒットしたらそれは「独自性」として評価されます。つまりはヒットしたら勝ちってことです」
西村綾香先生はふんすと少し自慢げに言った。
そして、次の瞬間、はっとして少し自信なさげに付け加えた。
「あくまで私の個人的な意見ですからね?」
「……先生は何に怯えているんですか?」
「つまり、一次を通るようになったから、次は二次……ってことはないってことです。運次第で一次で平気で落ちますし」
「そんなもんなんですか」
「大体7,000作から選ばれた二次通過の300作があったら、それはもうどれも面白い作品と思うわよ? ただ、その時の都合のいい作品が大賞を取る……みたいな」
「そう考えると、企業とコラボできそうな内容の作品とかの方がいいような……」
僕が顎を触りながら考えていると、助手が僕の顔を覗き込んできた。
「先輩は、そんな器用なことはどうせできないんですから、大人しく自分の好きなものを書いていればいいんです」
たしかに、僕のことをよく知っている。
無理やり書いた小説はどこか心が乗らない。書き上げたとしても自分で面白いと思えないのだ。
「たしかに、運次第ならたくさん書いて、たくさん応募した方が通りやすいかも知れないな。ありがとう、助手」
「ちがっ、違います。私は先輩のポンコツな小説なんて……」
今日の助手の言葉の刃はいまいち切れ味が良くなかったみたいだ。
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