第72話
「僕はお前を許さない」
「……え?」
「お前はマティルダをあんな目に合わせた張本人だ。そんな奴と一緒に暮らすなんてあり得ない」
「それは仕方なく……っ」
「マティルダは僕の大切な人だよ。死にたくなければ二度と僕の前に姿を現すな」
「嫌よ……!こんなのっ、私……っ」
シエナは大きく目を見開いたあとに震える手で両手を覆ってしまった。
肩を揺らして泣いているのかと思いきや、手は力なく項垂れる。
そしてヘラリと笑いながらブツブツと小声で呟いている。
「ウフフ、そうよ!リセットすればいいのね……!今度は間違わないんだからっ」
「リセット……?」
その言葉にゾッとしていた。
シエナはマティルダから見て、もう正気だと思えなかった。
「お前達はブルカリック王国に送り、然るべき処罰を受けてもらう」
「…………嘘だ」
「いやだ……俺の未来がっ、俺の地位が……」
ベンジャミンは仮面をつけてから、パチンと指を鳴らした。
すると三人の体が力なく宙に浮かぶ。
シエナはずっと何かを呟いており、ローリーは項垂れて、ライボルトは体を震わせながら頭を抱えている。
「僕はこいつらをブルカリック国王の元に突き出してくるから、マティルダは待っていてね……?」
「はい!ここで待っていますね」
「……!うん」
マティルダは笑顔でベンジャミンを送り出した。
ローリーは大波を起こし城下町を危機に陥れたこと。
ライボルトもシエナを連れ出したことや、シエナに協力してマティルダを誘拐しようとしたことで三人まとめて処刑台送りとなった。
シエナは最後まで「リセットしましょう」と呟いていたそうだ。
ベンジャミンはカンカンに怒っており、今後一切ブルカリック王国に手を貸すことはないと宣言したらしい。
国王達は必死に謝罪をしたがベンジャミンはマティルダに危害を加えようとした三人を許せないと、ブルカリック王国にとっては最悪の結末になってしまったようだ。
マティルダは相変わらず森の中でベンジャミンと共に暮らしている。
あの日、マティルダが開けた大穴はベンジャミンによって塞がれて、ライボルトに焼かれた花も次の日には元に戻っていた。
ここは周囲から見つからないように魔法をかけていたのにも関わらず、シエナがこの場所が何故わかったのかわからないと、ベンジャミンは何度も呟いていた。
詳しく聞けなかったがシエナは乙女ゲームの知識を利用してここまでやってきたのだろうが、それをベンジャミンに伝えることができなかった。
わかったのはベンジャミンも攻略対象者だったということだ。
しかしマティルダはそのことを知らなかった。
(隠しキャラだったのかしら……?)
シエナは自分とベンジャミンが結ばれることは当然だと言っていたし、花の指輪にも反応していたことを見るに間違いはないだろう。
ベンジャミンの人間離れした美しい顔を見ながら、マティルダは考えていた。
「マティルダ、どうしたの?」
「わたくしはこんなに幸せでいいのかなって……思っていただけです」
「マティルダはたくさん頑張っていた。だから幸せになってもいいんだよ」
そう言ったベンジャミンの手を取り、体を寄せ合っていた。
青々とした空にはイグニスとトニトルスが喧嘩をしているのか炎と電気が飛び交っていた。
瞳を合わせて、ゆっくりと唇を合わせてから笑い合った。
指を絡めてから彼にもたれるようにして体を寄せたあと、そっと唇にキスをする。
「マティルダはずるいなぁ……」
「ふふっ、ベンジャミン様が大好きですから」
「僕もマティルダが大好き。閉じ込めて僕だけしか見えないように……「わー!わー!それは禁止です」
「はは、冗談だよ」と言ったベンジャミンは胸ポケットから紫色の宝石がはめ込まれた金色の懐中時計を取り出して蓋を開けて時間を確認する。
蓋の中側には二人の名前が刻まれていた。
マティルダがプレゼントした懐中時計をベンジャミンは「一生大切にする」と言って、宝物のように使ってくれている。
暇があれば、ずっと懐中時計を見ている。
「そろそろ家に戻ろうか」
「はい!今日はベンジャミン様が好きなクッキーを焼いたんですよ」
「マティルダの作るクッキーが一番好きかもしれない。食べるのが楽しみだよ」
「行きましょう!」
転生した悪役令嬢が幸せになれるとは限らない……そんな台詞が頭に浮かんだが、今ならこう答えるだろう。
(──ううん、今はわたくしとっても幸せ!!!)
end
ここまで読んでくださり、大変嬉しく思います(*゚▽゚*)
ありがとうございました♪
【コミカライズ企画進行中】ヤンデレ最強魔法使いと国外追放された悪役令嬢の幸せな新婚(監禁)生活〜元婚約者達は勝手に破滅したようですが、わたくしは知りませんから!〜 やきいもほくほく @yakiimo_hokuhoku
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