第20話

マティルダは何度か瞬きをしながら目を薄っすらと開けた。

日当たりのいい窓を見上げつつも、幸せに浸かっていた。


(まだ眠い……このまま二度寝しましょう)


そんな気持ちに身を任せるまま、もう一度眠ろうと寝返りを打った時に大きな影が見えて目を凝らしてみると…。



「──っ!?!?」



マティルダの隣に寝ているベンジャミンの姿をみて、マティルダの意識は一気に覚醒する。

そして思いきり息を止めた。

こんなに間近に男性の顔があると思うだけで心臓が口から飛び出してしまいそうになった。


(ど、どうしてわたくしの隣にベンジャミン様が寝ているの!?)


ベンジャミンと距離を取るために後ろに下がるが、すぐに壁が背に当たってしまう。

戸惑いつつ、首を動かしてどうするべきか模索している時だった。



「ん……?マティルダ、よく眠れた?」


「はい、眠れました!それはもう、よく眠れましたっ」


「良かった」



マティルダは首を細かく縦に動かしていた。

ベンジャミンは安心したように微笑んでからゆっくりと体を起こす。

「よく寝た……」と言いながら腕を上に伸ばしているベンジャミンの様子を窺いつつ、間近にあった顔が離れたことに安堵していた。

あんなに綺麗な顔が目の前にあったら誰だってこの反応になるのだろう。


ホッと息を吐き出してならマティルダも体を起こして、寝ていたベッドから足を下ろす。

カチャカチャと擦れる食器の音、ベンジャミンの背中を見ながら、そわそわしていると目の前に差し出されるカップとソーサー。

湯気がたっているカップを見つめた後に、再びベンジャミンに視線を戻す。



「お昼寝はどうだった?」


「は、はい!気持ちよく眠れました」


「マティルダの可愛らしい寝顔を見ていたら僕も眠くなったんだ。なんだか温かくて心地よかった。こんなに気持ちよく眠れたのは初めてだったよ」



彼の言葉を聞き流しつつ寝顔を見られた恥ずかしさと戦っていると、ベンジャミンは「どうぞ」と言ってカップを見ている。

「ありがとうございます」と御礼をいいつつも、カップに入ったミルクを飲み込もうとした時だった。



「熱……っ!」



思ったよりも熱い液体に舌が痺れるように痛くなった。

舌を出して痛みを逃していると、目の前に影が落ちる。

ベンジャミンの顔が間近にあることに気づいて首を傾げた時だった。



「マティルダ、大丈夫!?まさか火傷をしたの!?舌を出してくれ……!」


「へ……?」


「マティルダが怪我を……!こんな時、どうすればいいんだろうか」



オロオロしているベンジャミンに言われるがまま、舌を出していた。

少し火傷しただけなので大丈夫だと言いたいが、舌を引っ込めようとすると怒られてしまう。



「こんな時、どうしたら……」


「ら、らいじょうぶへすよ?(だ、だいじょうぶですよ?)」


「マティルダを傷つけないと約束したのに……!なんでこんなことに」



こんな些細な怪我まで数えていたらそれこそ何もできないのではないかと思っていたのだが、ベンジャミンは冷たい飲み物を持って氷をカップにいっぱいにいれてマティルダに渡した。

これで舌を冷やせということだろうか。

冷たい飲み物を飲むと舌がひんやりとする。



「ありがとうございます。ベンジャミン様、もう痛みは治りました!」


「……本当!?」


「えぇ、本当です」


「ああ、よかった……人は弱くてすぐに死んでしまうから」


「???」



ホッと息を吐き出したベンジャミンは安心したようにマティルダの頬を撫でた。

しかし何故こんなにも過保護に接してくれるのかはわからないが、ベンジャミンの顔が間近にあって、だんだんと頬が赤くなっていく。

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