第21話
「今度から気をつけないと……本当にごめんね。マティルダが傷つくことはもう二度と見たくないんだ。やっぱり光魔法を使えるやつを連れてきて治してもらおうかな」
ベンジャミンは独り言のようにブツブツと呟いている。
光魔法といえば、ブルカリック王国で唯一、光魔法を使えるのはシエナしかいない。
彼女を連れてこられても困るし、そもそもこの段階でヒロインは癒しの魔法を使うことはできないだろう。
(それこそ魔法の力を高めるには血の滲むような努力が必要だもの……)
学園でシエナが魔法で努力しているところをマティルダは見たことがない。
何をしていたのかは知らないが、少なくとも他の令嬢達からもシエナの噂は聞いていない。
珍しい光魔法を使える少女、それだけだ。
ベンジャミンが訳の分からない単語を呟き始めたところで、このままでは埒があかないとマティルダは勇気をだして声を上げた。
「あ、あの……ベンジャミン様!」
「どうしたのマティルダ?まだ痛む?カルバレー王国の薬師なら……」
「いいえ!そうではなくて、何故こんなにわたくしを心配して下さるのでしょうか?」
マティルダの問いかけにキョトンと目を丸くしたベンジャミンは首を傾げた。
「それにこれ以上、ベンジャミン様にご迷惑をかけるわけにはいきません!わたくしはローリー殿下からも婚約破棄されて恐らく公爵家からも……」
「…………」
「今はもう、ベンジャミン様に何も差し上げることもできません」
あの時の出来事を思い出すと気分が重くなる。
ヒロインのシエナはローリーと結ばれてハッピーエンド。
ライボルトもマティルダという邪魔者がいなくなったことで、喜んでいる頃だろう。
そしてローリーの誕生日パーティーを楽しみつつ、二部にやってきたガルボルグ公爵達が来るのを待って、マティルダのことを報告するはずだ。
(あの子達もあのまま黙っていてくれたらいいけど……)
友人の令嬢達はマティルダを庇おうとしてくれていた。
しかしそんな彼女達を牽制するためとはいえ、魔法を使ってしまったことを悔いていた。
(……わたくしの分まで、婚約者と幸せに暮らせますように)
乙女ゲームに転生した悪役令嬢が幸せになるとは限らない。
自分なりに努力した結果、なんとか生き延びることはできたものの、国外に追放されたマティルダはバッドエンドを迎えた。
それでも一番マシなルートで、ベンジャミンに助けてもらったことで生き残れただけでもよかったと思うべきなのだろう。
そしていくら魔法講師としてマティルダに魔法を教えていただけのベンジャミンが、ここまでマティルダに優しくしてくれるのは何故かと考えてもさっぱりである。
「知ってるよ」
「え……?」
「全部、見ていたから」
再び、ベンジャミンの表情がなくなり冷たくなったような気がした。
仮面をつけていないからか、彼の感情の変化が見えることを不思議な気持ちで眺めていた。
「見ていたって……どういうことですか?」
「トニトルスに頼んで見張っていた。マティルダのことが心配だったから」
「トニ、トルス……?」
しかしベンジャミンはそう言って笑ったが、まったく意味がわからない。
「トニトルスとは…」と問いかけると「譲り受けたんだ」と返ってくる。
(……どうしましょう。ベンジャミン様の言葉の意味が全く意味がわからないわ)
口数が多いわけではないベンジャミンにこれ以上、問い詰めても同じことの繰り返しになってしまう。
質問を変えようかと思ったが、今はトニトルスより、ベンジャミンがマティルダにここまでしてくれる理由が気になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます