第14話
「違うのです……!ローリー殿下、わたくしの話を聞いてください!」
「うるさい!黙れっ!」
「……………」
そう言うローリーの手は隣にいるシエナの腰にあり、体を寄り添うようにして密着させている。
(……裏切り者はどちらなのかしら)
仮にも婚約者に婚約の解消を迫るのに、他の令嬢と親しげにしているのはいかがなものかとつっこみを入れたくなってしまうのは致し方のないことだろう。
割り込みや弁解は許さないとばかりにローリーの口から一方的に語られていくマティルダを責め立てる言葉。
どうやらこちらの話は一切、聞く気はないようだ。
そんな時、ローリーの影から薄紫色のレースがふんだんに使われているドレスを着て、ホワイトゴールドの髪を綺麗に纏めているシエナが現れる。
眉毛は八の字になっていてピンク色の瞳は潤んでおり、今にも涙が溢れてしまいそうだ。
震える手を祈るように組んでいる。
「ローリー殿下、ですがマティルダ様は国にとって必要不可欠な存在ですわ!それに婚約を破棄するなんて……マティルダ様の立場が」
「心配するな、シエナ。これは致し方ないことなんだ」
マティルダを無視して進んでいく断罪のシナリオは止まることはない。
本来ならば、マティルダは怒りを爆発させて魔法の力を暴走させ、シエナに襲いかかるがローリーによって押さえ込まれてしまう。
そして最後には暴言を吐き散らしながら騎士に拘束されて退場する。
今のマティルダには呆れすぎてそれをする気力もない。
元々、そうならないために今まで頑張ってきたつもりだった。
それよりも今後、マティルダに待ち受けているであろう悲惨な結末について頭を抱えていた。
(ああ、詰んだわ……!なんでこんなに一方的なの!?わたくし、何も悪いことしていないのにっ)
あれだけ頑張ってきたのにも関わらず、それが報われないとなると、もうこうなってしまうのは『運命』とさえ思えてくる。
(こんなことになるんだったら、さっさと逃げてしまえばよかったのよ!もう、わたくしのバカッ)
しかしそんな思考を見透かすようにマティルダは追い詰められていく。
「ガルボルグ公爵にもこの件を伝えさせてもらう」
「……!」
「もうお前に逃げ場などない。マティルダ」
このことをガルボルグ公爵に報告されたらどうなるか簡単に想像ができた。
まず騒ぎを起こしたことを怒られて、ローリーに疑われたことを怒られて、ローリーとの関係がうまくいかなかったことを怒られて叱られて……そんな展開が安易に想像できた。
マティルダの頭の中に『めんどくさい』という感情が溢れ出していた。
「マティルダ、お前を国外追放とする!今すぐブルカリック王国から出て行ってくれ!」
「…………!」
ついにマティルダに告げられた国外追放。
しかし溶けることも砂になることもなく、一番マシなエンドを迎えられたことは喜ばしいが、納得できない結末である。
(わたくしなりに頑張ったつもりだったけど……結局、こうなってしまうのね)
どこか諦めの気持ちと共に、胸にぽっかりと穴が空いたような感覚に小さなため息を吐き出した。
ここで駄々を捏ねても、シナリオ通りにしかならないような気がしていた。
それに色々な知識も魔法も手に入れたのだから世界を回ってみるのも楽しいかもしれないと気持ちを切り替えたマティルダは綺麗にお辞儀をしてからローリー、シエナ、ライボルトの順に目を合わせた。
しかしライボルトだけは気まずそうに視線を逸らした。
それはやましいことがあるからだろう。
「わたくしが邪魔で追い出したいというのならばこの国から去りましょう」
「なっ……!」
「マティルダ様、わたしそんなつもりじゃ……」
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