第13話
「いいのです。私はローリー殿下の立場が悪くなることだけは避けたいから……」
「…………シエナ、ありがとう」
まるで観客席で舞台を見ているようだった。
悲劇のヒロインとそれを救った王子。
それと……そんな二人を引き裂く悪役の構図である。
しかし会場の令息と令嬢達の反応は乙女ゲームとは違っていた。
マティルダよりもシエナとローリーが共にいるところを多く見ていたことと、マティルダが何もしていないことを知っているのだろう。
「マティルダ様が邪魔になったのでは?」
「お二人がよく一緒にいるところを見たわ」
「シエナ様ってば、どういうおつもりなのかしら」
今のところ、全く根拠のないローリーの言葉にマティルダに味方している人が多いようだ。
(今までいい人になっておいてよかったー!)
しかしそんなローリーとシエナを庇うように現れたライボルトの姿を見てギョッとする。
ローリーと同じように鋭い視線を送るライボルトは壇上からマティルダを見下ろしながらニヤリと唇を歪めた。
(なに……この展開。もしかしてまた何かを言う気!?)
マティルダは緊張感にゴクリと喉を鳴らした。
「マティルダは、ローリー殿下に内緒でガルボルグ邸に男を連れ込んでいた」
「──はい!?」
ライボルトの言葉にマティルダから大きな声が漏れる。
しかしライボルトは軽蔑した眼差しでマティルダを見ながら吐き捨てるように言った。
「……黒い仮面を被った男だ」
「なっ……!ベンジャミン様は魔法を教えてくださっていただけですわ!それはライボルトお兄様も知っていますでしょう!?」
「さぁ……どうだか」
「お父様とお母様に確認していただければすぐにわかりますわ!」
「父上と母上はお前の味方だからな。二人きりで森に行ったりしていたではないか!」
「そのようなことがないようにと侍女も常に側に待機していて、お父様とお母様もよく……!」
「そんなものはいくらでも言い訳できる。だが俺は……騙されないからな!」
マティルダは魔法を教わっていたが、必ず侍女が控えていたしやましいことはしていない。
それを密会ではないことはライボルトもよくわかっているだろうに……。
マティルダはライボルトに裏切られたような気分だった。
「ライボルトはマティルダの不貞行為を目撃したそうだ。これは許されることではない!」
「違います……!ベンジャミン様はわたくしの魔法の講師をしてくださって、決してそのようなことは」
「マティルダが不貞行為を行った以上、止むを得ない」
「…………!」
マティルダは息を止めた。
次に何を言われるのか、自然とわかってしまったからだ。
それと同時にあることが頭を過ぎる。
──転生した悪役令嬢が、必ず幸せを掴めるとは限らない。
そして、ついに〝あの台詞〟が耳に届いた。
「数々の証拠は揃っている。マティルダ・ガルボルグ、貴様との婚約を破棄をする……!」
「……!」
頭の中に鳴り響く『人生が終了』のお知らせ。
緊張で震える手をドレスをギュッと握りながら隠していた。
(どうしよう……!やっぱり断罪回避できなかった。このままだとわたくし、どうなってしまうの!?)
足は小鹿のように震えているが重たいドレスの裾で隠れている。
マティルダはギュッと手を握りながら意を決して壇上を見上げた後に反論するために口を開いた。
「わたくしは……っ!」
「長年、俺の婚約者として王家のために尽くしてきたことは賞賛に値するが、今回の件で父上と母上はがっかりするだろうな」
「違うのです……!ローリー殿下、わたくしの話を聞いてください!」
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