第8話

「みなさん、よく聞いてください」



館内放送が流れるも、とにかく帰って過食したい。放送を聴きながら思った。


過食と嘔吐はセットじゃない。

私のように吐かずに食べ続けている女がいる。


昔はこんな女じゃなかった。


かつては婚約者もいて、その男と結婚しようと思っていた。


だが、

その男は銃を作るのが趣味だった。


結婚したかった。

「これからも銃を作るけどいいか」と言われた。絶望した瞬間だった。



結婚しなくてもよかった。

結婚していたら「佐々木のぞみ」という名前になった。


芸能界の中でも特別の美女。

強くて逞しい女の人。


私はその名前でイジられるのも許さなかっただろう。自信が常にないから、すぐにバカにされたと思ってしまう。


佐々木という男と別れた時、私は37歳だった。

焦って婚活しても、プライドが邪魔してうまくいかず、

体重だけが増えた。

仕事も後輩ができるようになり、居場所がなくなった。


何もかもうまくいかない。


うまくいかないから、いつも嘘の情報を流している。

そう、ここのスーパーの駐車場で車に轢かれた女。


あの女が不倫していたことを捏造した。

闇バイトと言うのだろうか。

金をもらえばなんでもする。


失意の男をもっと失意に落とさせるのは簡単だ。仕事ができて、綺麗な妻を亡くした男。

悲劇の男をさらに追い込むのは快感だった。


得た金は過食に使って浄化した。




館内放送はスーパを占拠した男がルール説明をしている。声は響く。


「このスーパーで777円の買い物をすること。

もちろん税込です。制限時間は7分。ぴったりに買い物できなければ殺します」


わたしは馬鹿馬鹿しくて身体を動かした。

こんな説明聞いてられるか。


パンという音が頭に響く。




ああ、私の人生は終わったのね。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る