第2話

 二ヶ月が経つ頃、届いた手紙に記されていたのは、

「会いに行きます」

 の一文だった。心臓がドクンと大きく鳴った気がした。

 その日は一日中気もそぞろで、何も手につかなかった。手紙の主に会える。そう思った時、僕の中には期待と不安が入り混じっていた。

 自分に好意を向けてくれている人に会いたい気持ちと、こんな手紙を二ヶ月の間毎日欠かさず届けてくるような人物は控えめに見てもマトモじゃないという気持ち。どちらが勝るでもなく、きれいに半々に分かれていた。

 そして夜になった。手紙にはいつ来るかなどは書かれていない。僕はただただ待ち続けた。

 以前寝ずの番をした時に手紙が入れられたのと同じ時間。玄関から小さな音がした。ノックの音だった。来た。僕はこの期に及んで躊躇していた。ドアを開けるか開けないか。

 そうこうしているうちにもう一度ノックの音がした。待っている。僕は意を決して玄関に向かい、ドアを開け―――。


 気が付くと、夜が明けていた。僕は布団にも入らずに床で寝ていたらしい。昨日の夜は確か……。ダメだ。思い出せない。そうだ。手紙。今日も届いているはず。

 玄関の郵便受けを開ける。そこには無数の便箋がむき出しのまま詰められていた。一枚を手に取る。

「ありがとう」

 もう一枚、もう一枚と手に取り読んでいく。書かれている言葉はどれも同じだった。しかし、最後の一枚だけが違っていた。

「いっしょにいきましょう」

 いっしょに。そうだった。行かなければ。昨日の夜約束したんだ。僕は、彼女と一緒に。玄関のドアを開ける。彼女が待っている。僕は差し出された手を取って、二人で歩き出す。でも肝心なことが分からないままだった。僕は、彼女といったいどこへ行くのだろう?


 そうして、その青年は姿を消した。連絡が取れなくなったことを心配した彼の両親が入った部屋には白紙の便箋が何枚も何枚も散らばっていただけだった。

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手紙 石野二番 @ishino2nd

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