手紙
石野二番
第1話
夜になると、手紙が届く。玄関のドアの郵便受けがカタリと鳴る。いつからか、僕はそれを待ち遠しく思っている。
手紙が届くようになったのは、この部屋に引っ越してきてからすぐだった。朝起きて郵便受けを確認すると住所も名前も書かれていない無地の封筒が入っていた。不審に思いながら開けてみると一枚の便箋が出てきた。それには短く、
「会いたいです」
とだけ書かれていた。僕は何かのイタズラかと思い便箋と封筒をゴミ箱に突っ込んで大学に行く準備を始めた。
次の日も、そのまた次の日も手紙は届いた。文面はいつも一言だけ。
「会いたいです」
僕はだんだん気味が悪くなってきた。イタズラにしては何かがおかしい。万が一の時に証拠として出せるように手紙は保管しておくことにした。
手紙は毎朝郵便受けに入っている。ある日、僕はいつ誰がその手紙を入れているのか突き止めてやろうと一晩寝ずの番をしてみた。
夜も更けてウトウトし始めた頃、郵便受けからカタンと音がした。一気に目が覚める。玄関まで走っていき勢いよくドアを開ける。周囲には誰もいなかった。郵便受けにはいつもの手紙の入った封筒が入っており手紙には、
「うれしい」
と書かれていた。僕が寝ずに待っていたことに対する言葉に思えた。
翌日の夜も同様に手紙は入れられていた。
「もっと会いたくなりました」
僕の気持ちに変化があったのもこの頃からだったと思う。やり方はどうであれ、この手紙の送り主は自分に好意を持っているようだ。それ自体は悪い気はしなかった。我ながらちょろい男だとも思いながら、手紙が来るのを少しずつ待ち望むようになっていった。
一度だけこちらから手紙を返したことがあった。送られてくるものと同じように無地の封筒に便箋を入れて玄関のドアに張り付けておいたのだ。文面も悩んだ末、相手の体裁に習うことにした。一言、
「あなたは誰?」
とだけ記した。その日の手紙には、
「知りたいですか?」
と書かれてあった。返事のようだが、それにしては来るタイミングがおかしい。早過ぎるのだ。まさかうちの玄関の前で書いているのか。謎は深まるばかりだった。
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