自由に泳ぐのはむずい

だら子

第1話

普通の学校に嫌気がさして、全校生徒が声を上げた。廊下は走りたいし、授業も退屈だ。自分がやりたい教科だけ勉強したい。


「自由な学校がいい!!」


そして、今日から【自由小学校】解禁となったのだ!!!


生徒は、自由に学べる。何を学ぼうとするも自由。ただ、追加料金がかかることも。先生はいるが、生徒には注意しない。給食はないかわりに、好きなときに好きなものを食べていい。学びながら食べても何も言われないから。みんなトッポなんかパリポリ食べながらすごしている。


わたしはミカ。小学5年生。水泳が好き。自由な学校になってからは自由に泳いでばかりいる。最初はすごい楽しかった。


でも…。先生に、もっとうまくなりたいから教えてください言ったら別料金がかかるって言われちゃった。お金がないならYouTubeで見て研究しなって。動きを確認することはできても、どこがいけないのかわからない。子ども同士でアドバイスしあっても全然うまくいかない。


かっこよくてバタフライが速くて憧れていたケント。アドバイスがごちゃごちゃうるさいから嫌いになりそう。「じゃあ、どうすればいいの?練習の仕方を教えて!」言っても返事はなし。しまいにゃみんなでケンカに。先生はケンカの仲裁なんてしてくれない。別料金かかるし。


お金があるタケルだけは、快適に小学校で生活してる。好きな時に好きなものを食べて。何かあればお金で解決。「こんな学校あったらいいな」とみんなが夢見た学校は、自由だけど平等じゃない。ユイは、お弁当を持ってこれずみんなにバカにされ、学校に来れなくなった。給食がなくなり、喜んでる子はたしかにいる。嫌いなものも食べなくていい。でも、みんなわからないのかな?お金がない子どもがいるってこと。いろんなお家がある。それが、家庭の事情だ。ユイはバカにされる筋合いなんてない。


勉強していないと、思いやりまでなくなった。メリハリがなくだらしない。みんな汚く見える。汗をかいても拭かない子、着替えない子、汚い言葉遣いでも誰も注意しない。プールだって誰も掃除しない。わたしは嫌だから頑張って掃除してるけど不公平。勉強しなくなってから、なんだかわからないこと、疑問が増えてきた。楽しいはずのYouTubeだって飽きてきたよ。ねぇ、本当にこんな学校でいいの?


「自由学校」が解禁して、タケルのように、夢の毎日をおくっている子もいる。でも、わたしは違う、きっとユイだって。100人いたら100通りの理想があるんだ。すべてを叶えることはムズイ。


そんなことを疲れきった頭で考えながら、プールで泳いでいたら、思うように進まない。どうして思い通りに泳げないの?鉛が足についているみたいに、下に下にひっぱられる。水をかぶかぶ飲む。苦しい!助けて!!先生!先生は助けるときも別料金なの……!?


目を覚ましたときは病院にいた。同級生がたくさんいる。ボンヤリした頭でもわかる。みんな泣いて先生にお願いをしていた。


「やっぱり今までの学校に戻してください!」


校長先生がうなずいている。「自由を一緒に考えていこう。自由は、責任とセットなんだ。まだ小学生だから難しいかもしれないが、散らかし放題の教室、誰も掃除しなかっただろ?ルールはみんなをしばることじゃなく、気持ちよく過ごせるようにあるんだ。あとね…」


校長先生は続けて、ゆっくり静かに語りかけた。


「嫌いな勉強は本当に無意味かな?知らないことを知るって、刺激的なことだってわかったんじゃないかな。毎日知っていることだけで過ごすってつまらなかったでしょ?たしかに数学の嫌いなミカさんは、数学者にはならないかもしれない。だけどね、脳を動かすって大事なんだよ。まだまだ脳は解明されてないことばかりなんだ。いつか動かしたこと脳が大活躍するかもしれない。例えば、難しい数学の解き方が、ビビッとくる恋に活かされたりなんかしてね」


校長先生の話はやっぱり長かった。でも、わたしたちは真剣に聞いた。最後のは、オヤジギャグだから、苦笑いだけど。


先生の言う通り、自由に泳ぐのはムズイ。わたしたちは、それを今、学んでいくんだ。自由をもっと自分で扱えるように。


ミカを助けてくれたのは、もちろんケントなんだけど…それを知るのは、ずっと先の大人になってからの話。

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