第14話 期末テストが近いらしい
雨の日の合間に晴れの日が増えてきた今日この頃、唸り声が教室に響いていた。声が同じなのでシンクロ率100%、私とくれちゃんが問題集を前にした時の唸りである。
「……そうして唸っていても、目の前の課題は無くなりませんわよ。」
「ううぅ……だって量がさぁ……。」
「だぁぁ~っ!!分からんっ!!答え!答え見せて!!」
「教科書の参照ページはお伝えしましたでしょう?例題は解けたのですから、1度自力でどうぞ。間違っても構いませんので。」
期末テストの3日前、課題を溜め込んだ私と、前回赤点を3つ取ったくれちゃんは放課後の教室で勉強をしていた。
……いや、2人とも今やっているのは期末前の課題であり、正しくは勉強では無いのかもしれない。
「何故そうして課題を溜めてしまうんですの?」
「まだ日数あるからいいかなーって思ってたら、いつの間にか……ね。」
「アタシは忘れてただけだぜ!!」
「全く、奔放なのも良いですが、学生の本分は勉強ですのよ?」
ため息をつきながらも、愛桜ちゃんは勉強のために放課後まで付き合ってくれている。成績上位の愛桜ちゃんは、難しい所や分からない所は懇切丁寧に解説してくれる。持つべきものは頭の良い友達だ。
「でも、アタシ勉強向いてないからさ~……。」
「紅葉さん、勉強は向き不向きではありませんわ。自分向きのやり方を模索するものですの。」
「アタシ向きの?」
「そうですわ。例えば、紅葉さんはお花が好きですわよね。」
「そうだな!」
「数学の公式に出てくるxやyを好きなお花に置き換えてみると、その後の解き方にストーリー性を見出すことが出来ますの。」
そう言った愛桜ちゃんは、くれちゃんのノートや教科書に指をさしつつ、さらりと解き方に対して1つの物語を作ってしまった。なかなか頭の中に残る悲恋の物語だった。
何故悲しいお話なのか聞いてみると、愛桜ちゃん曰く「代入したお花の花言葉が悲しいものばかりだから」とのことだった。凄い。考えられすぎている。
「根本的な理解にはなりませんが、赤点回避くらいには役立つでしょう。」
「ありがとな、愛桜!アタシこの解き方好きかも!テスト範囲の公式のお話、全部考えてもらってもいいか?」
「天使の笑顔で凄い無茶な振りをしますわね……。でも良いでしょう。わたくしはもうテスト範囲は全て理解致しましたので。」
「それ、私もお話聞きたい……!」
くれちゃんがお花の名前を記号に当てはめ、お花の名前の人名と解釈し、物語を何となく覚える。そうすると、問題が俄然分かりやすくなって解きやすくなる。なるほど、これが頭の出来の差か。
「……ふぅ、とりあえず数学の課題終わった。解き方分かると早いね。」
「す……凄い……!アタシが数学の問題をこんなにサクサク解けたなんて……!!」
「えぇ、おふたりとも単純なケアレスミス以外はちゃんと正解していますので、落ち着いて解けばテストでも高得点を狙えるかも知れませんわね。」
こうして期末テスト当日まで愛桜ちゃんに付きっきりで面倒を見てもらい、私たちの学力はメキメキと上がっていった。
そして、(主にくれちゃんにとって)運命のテスト当日────
「本日が決戦の日ですわ。皆で頑張りましょう!」
「うん、今回のテストでは絶対点取れる気がする。愛桜ちゃん、ありがとね!」
「アタシも赤点回避頑張る!ふふ〜、もしかしたら愛桜のテストの点数抜けるかもな~?」
「ふふ、お互いベストを尽くしましょうね。」
そして臨んだテスト。今までにないくらいサラサラとペンが進む。脳裏に今まで愛桜ちゃんが言っていたことや物語、ちょっとキテレツな覚え方がしっかりと焼き付いている。
……これでめっちゃ点取れてたら、今後も同じ感じで勉強しよ。もし今後「どうしてそうなるのか」の理解が必要になったら、また別の方法を編み出そう。
「……終わったぁ……。」
「テスト3日前からのスタートでしたのに……おふたりとも、とっても頑張りましたわね。」
「アタシ、初めて解答欄全部埋めたかも……。」
「素晴らしいですわ。返却が楽しみですわね。」
「愛桜ちゃん、テスト1日目と2日目の放課後まで、図書館で勉強見てくれてありがとね。本当に助かった!」
「いえいえ、自分に合った勉強方法が見つかったなら何よりですわ。」
こうして互いを労いつつ、テスト終了を祝して、帰り道の自販機でジュースを買って乾杯した。沢山勉強して頭を使ったからか、いつもより甘さに幸福感がある気がした。
────そして約1週間後、全てのテストが返却された。
「…………!」
「わたくしはいつも通りでしたわ。おふたりは総評、いかがですか?」
返ってきたテストの点数、そして順位は……。
「私……全教科、過去最高得点……。しかも国語、学年順位で3位だ……。」
「舞雪、全体的に点数高いの凄いな……!でもアタシも負けてないぞ。赤点1個も無いし、ほら見ろ!数学100点だ!」
「紅葉さんは元々勉強のポテンシャルがあるのですわ。センスがいい、ということですの。」
「本当か……!?」
「ええ。折角ですし、わたくしのお家にお嫁に来ませんこと?」
「何が折角なんだよ!!」
こうして、愛桜ちゃんのお陰で無事に終了した期末テスト。7月初旬、今日は快晴だ。照りつける日差しから、段々夏本番が近づいている気配がした。
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