第13話 梅雨はどうしても嫌いらしい

6月下旬に差し掛かる頃、連日雨。教室から見える空は今にも雨が降りそうな曇天だ。つまり、梅雨の真っ只中である。

実を言うと、私はこの時期が嫌いだ。多分皆嫌いだと思うけど(偏見)、私はきっと世界一嫌いだ。



「はよー、舞雪!」


「くれちゃんは元気だね……。」


「アタシはいつでも元気だぜ~!そう言う舞雪は元気ないな、何かあったのか?」


「なんか、梅雨ってテンション下がらない?髪くねるしダルいっていうか……そもそも雨ばっかってだけでめんどいしさ……。」


「そうか?そういうもんか?」



私とくれちゃんで駄弁っていると、珍しくガタッと大きな音を立てて愛桜ちゃんが席に着いた。と思えば、鞄の中の物を取り出すでもなく、ただ机に突っ伏した。



「愛桜ちゃん、おはよ……?」


「……。」


「愛桜……?」



余りの違和感に挨拶が疑問形になってしまう。

だって愛桜ちゃんは今まで、間違っても椅子を引く時にガタッなんて音させなかったはずだ。それに、机に突っ伏したまま動かない。よく見ると、いつもより髪が少しくねっている。



「……ですわ……。」


「えっ、なんて?」


「頭が、痛いですわ……。薬が効くまでお見苦しい姿をお見せいたしますわ……お許しを……。」



愛桜ちゃんの目が……死んでいる。

前言撤回させて欲しい。世界一から世界二に。梅雨が世界一嫌いなのは愛桜ちゃん。これは決定事項だ。



(^ω^)(≧▽≦)( × × )



「はぁ……もう大丈夫ですわ。わたくし、この時期はどうにも好きになれませんの。」


「私も……って話を今くれちゃんとしてたんだ。」


「アタシは嫌いじゃないぞ!雨降らないと水溜まりにバッシャーンってできないからな!」


「紅葉さんは無邪気ですわね……。そんなところも好きですわよ……。」



愛桜ちゃんから感じる覇気が2分の1以下になっている……。いつもしっかりしてるのに、今日はちょっとナヨナヨモードだ。とても珍しい。



「あ、雨降ってきた。」


「朝の天気予報では午後から曇りで、帰る時間の頃には晴れ間が見えるって言ってたよな!」


「くれちゃん、天気予報バッチリだねぇ。」


「ふふ、えらいえらいですわ。」


「子供扱いすんなってば!アタシも天気予報とか朝のニュースの後の犬猫コーナーは見てるんだからな!」



ニュースは見てないんだ……。確かに私も犬猫コーナーは見ちゃうけど。

愛桜ちゃんが元のしっかりした感じに戻って、私たちの会話も元に戻り始める。ここからお話を、という所でチャイムが鳴った。朝のHRの時間である。



(^ω^)(≧▽≦)(@-@)



下校の時間。天気予報が大幅に外れ、依然として土砂降りだ。今日は同好会の活動も無いし、3人で昇降口まで来ていた。そこで事件は起きたのだった。



「……私の傘が無い。」


「舞雪さんの傘の特徴を教えて頂けますか?」


「ただのビニール傘だよ。持つとこに熊のシール貼っておいたけど……間違われちゃったか。」


「帰りどーすんの?アタシの傘入る?」



ほら、梅雨はいい事がない。別に怒ってはいないけど、テンションは着実に下がってきている。しかしここで足踏みしていても帰れないので、帰りのことを先に考えよう。



「くれちゃん、傘入れてくれるの?ありがとう。」


「いやいや~、全然いいぜ!」


「わたくし、迎えをお願いしましたので、校門からは車でお家までお送り致しますわ。」


「いや、申し訳ないよ……。」


「今からキャンセルする方が、迎えに来るお手伝いさんが困ってしまいますわよ~?」


「確かに……?じゃあ、折角だからお願いしようかな。くれちゃんも車で?」


「いや、アタシんちすぐそこだから大丈夫!」



こうしたやり取りを経て、くれちゃんの傘に入れてもらって校門までの道中を歩く。くれちゃんの傘はとにかく大きい。90cmのやつじゃないかな?私も楽々入れるサイズだ。

なのに、くれちゃんは私にギュッとくっついている。ちょっと歩きにくい。ワンチャンこれなら愛桜ちゃんもまとめて入れそうだ。



「くっつきすぎじゃない?」


「そうか?アタシは舞雪とくっつけて、すっごくシアワセだぞ~!」


「……もう少し離れていただいてもよろしくてよ、舞雪さん?」


「だよね?」


「いーやー!!折角同じ屋根の下にいるのに!」


「……傘だけどね。」



恋愛感情は置いておいて、こうして友達とわちゃわちゃしながら下校するのは楽しい。傘を持っていかれ甲斐があった、なんて。

校門でくれちゃんとバイバイして、愛桜ちゃんと一緒にやけに高そうな黒い車に乗った。



「お手伝いさんとか、高そうな車とか……。知ってはいたはずだけど、やっぱり愛桜ちゃんってお金持ちなんだね……。」


「いえ、わたくしがたまたま、お金持ちの両親の元に産まれただけです。」


「たまたま?」


「ええ、本当に偶然。たまたま、ですわ。」



確かに私たち同じ顔3人が揃って同じクラスに集まったのも偶然、たまたまだから、否定できない。

全然不快感を感じさせないような心地のいい運転で、気づけば私の家に到着していた。黒服のお姉さんがドアを開けてくれる。



「一ノ瀬様、ご自宅に到着致しました。」


「……わたくしは舞雪さんではなくってよ。」


「あっ……し、失礼いたしました……。」



車から降りて、雨から逃げるように家の中へ走る。

やっぱり梅雨は好きじゃないが、たまにはこんな日があってもいいのかな。そう思った。

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