第12話 先輩達のデートを見守るらしい

くれちゃんからもらった花の名前を調べると、どうやらアネモネというらしい。五木先輩の言うように意味があるのだろうか、と調べようとした瞬間、私のスマホが鳴った。



「もしもし、くれちゃん、どうしたの?」


『もしもし。いっちゃん先輩とメグちゃん先輩のデートって明後日なんだよな。愛桜も誘って出歯亀しに行こうぜ!』


「面白そう!でも、いいのかな……。」


『アタシ達も手伝ったんだし、結果くらいは見せてもらってもいいんじゃないか?』


「うーん、まぁ、そうだね!愛桜ちゃんは空いてるのかな。」


『午後からなら大丈夫だってさ!』



なんだ……。私に連絡するより先に、愛桜ちゃんには連絡してたのか……いや、なんでもない。

兎にも角にも、明日の午後からは先輩のデートを出歯亀することが決まったので、楽しみにするとしよう。



「うん、じゃあまた。日曜日、楽しみにしてるね。ばいばーい。」



電話を切って一呼吸置いてからベッドに入る。

その頃には、くれちゃんから貰った紫のアネモネの意味を調べる、なんてことは綺麗さっぱり忘れていたのだった。



(^ω^)(≧ω≦)(@-@)



「2人とも、お待たせ!」



例のごとく私が最後に到着して、出歯亀隊は出発となった。先輩のデートプランはくれちゃんが上手いこと聞き出しているそうなので、それに従って尾行する算段だ。



「しかし……わたくしも着いて行っていいんですの?紅葉さんと舞雪さんはともかく、わたくしは何もしていませんわよ?」


「そんなことないぞ!愛桜がいなかったら、いっちゃん先輩が自信もってプロポーズ出来ないかもしれないんだからな!」


「くれちゃんの言う通りだよ。愛桜ちゃん、この前は本当にありがとね。すっごく助かっちゃった!」


「……まぁ、あなた方がそう言ってくださるのなら。」



理由が足りないけど凄く行きたかったんだな、としか思えない表情だ。とってもかわ……んん、とっても面白い。



「2人ともこっち!いっちゃん先輩とメグちゃん先輩いたぞ!プレゼントは確か、帰り際に渡すって言ってたような……。」


「じゃあそれまで覗き見だね〜。予定では次にどこ行くことになってるの?」


「次は……『左杜翁さとおうガーデンパーク』でお花を見る予定だな。」


「では、そこへ向かいましょう。先回りしていた方が覗き見には適していますから。」



あくまで冷静なようで、本心ではワクワクを抑えきれていない、といった感じだろうか。

愛桜ちゃんはお嬢様だし、きっと悪いことなんてしたことは無いんだろう。



(^ω^)(≧ω≦)(@-@)



先回りして『左杜翁ガーデンパーク』にやって来た私達は、そこそこの人で賑わう入場無料らしいゲートを通り抜けて身を隠していた。



「来た来た、先輩達だぞ!」


「仲良さそうに腕なんか組んじゃって……。」


「やはり仲睦まじいカップルに見えますわね。」



しばらく尾行していると、五木先輩がチラリとこちらを見た。気づかれたのは確実なのだが、こちらに来るでもなく、そのまま四葉先輩の方に向き直って話を再開したようだ。



「今、いっちゃん先輩こっち見たよな……。」


「確実に気が付かれましたわね。」


「こっちに来ないから怒ってはない……よね。」



ふと立ち止まった先輩達は、ある花壇を見ながら何やら話している様子だ。離れ過ぎていて何を言っているのかは分からないが……。



「何話してるんだろう……。」


「分かんねーけど、楽しそうだな。」


「わたくしは少しだけ聞き取れますわ。断片的に繋げると、足元の花の名前の起源について話しているようです。」


「あそこの花壇はマーガレットだね。四葉先輩に今度聞いてみようかな。」



しばらくそこらじゅうを歩き回って、『左杜翁ガーデンパーク』を後にした私達は、次なる先回りを遂行した。



「次は栄笑ええ公園だな。あそこは景色も綺麗だし、遊歩道も長いからデートにはピッタリだ!」


「紅葉さん、楽しそうですわね。」


「うん、意外とこういうの好きなのかも。」



コソコソと隠れていると先輩達がやって来て、談笑しながら歩いていく。五木先輩、めっちゃご機嫌だな……。



「いっちゃん先輩って、メグちゃん先輩と2人きりだとあんな顔するんだな……。」


「ね、私も思った。」


「しかし、この公園で何かしらのアクションを起こす気は無さそうですわね。」



結局特に何も無いまま、つつがなくデートは進行していった。色んな場所に行って、沢山お話して、沢山笑って。



「ちょっと、帰ってきちゃったぞ!何も無いまま!プレゼントも渡してないぞ!」


「五木先輩……大丈夫かな。」


「大丈夫ですわよ、きっと。」



そして、すっかり暗くなった帰り際、四葉先輩の家────商店街の花屋さんの前。

遂にその時がやって来た。会話が聞こえるよう、出来るだけ近くに隠れて覗いている。



「……メグ。」


「いっちゃん、どうしたの?」


「その、誕生日おめでとう。」


「あはは、今日何回目のおめでとうなの?ありがとう!」



四葉先輩が咲いた花のような笑顔を惜しみなく五木先輩へ向ける。街灯のせいなのか、五木先輩の頬は少し赤く見えた。



「プレゼントを用意してあるんだが、いいだろうか。」


「ほんとに!?いっちゃんがくれるなら、何だって素敵なプレゼントだよ!」


「取ってくる、待っていてくれ。」



あー、道理で荷物が小さいと……。

五木先輩は小走りで四葉先輩の家の隣へと入っていった。家、隣だったんだ。



「……お待たせ、メグ。」



思ったよりもすぐに五木先輩は戻ってきた。四葉先輩は変わらぬ笑顔で迎えている。五木先輩は少し恥ずかしそうに、四葉先輩の前へと出てきた。



「メグ、このぬいぐるみ……覚えているだろうか。」


「これって……!」


「わたしが昔、メグにもらった物……。その色違いだ。……どうしても、プレゼントがしたくて。」


「わぁ、可愛い!いっちゃんのベッドに置いてあるのと同じ……あれ、このお花……カンパニュラ?造花だね。」


「枯れてしまうと悲しいから、造花にさせてもらったんだ。」



四葉先輩は少し考える素振りを見せると、納得したように頷き、微笑んだ。カンパニュラの花言葉に気がついたのだろう。



「全く……。折角だから、いっちゃんの言葉で聞きたいなー?」


「えっ。」


「あー私、誕生日なのになー。いっちゃんからの想いが聞けないなんてー、悲しいなー。」



凄く分かりやすい棒読みで、四葉先輩は嘘泣きを始めている。それに慌てて更に平静で無くなる五木先輩だが、一度深呼吸をすると、覚悟を決めたように四葉先輩の両手をとった。



「メグ、まずはいつもありがとう。周りから怖がられているわたしと仲良くしてくれて、とても助かっている。」


「うんうん。」


「それで……その……。」


「それで〜?」


「わたしは、メグを愛している。これからも、隣で笑っていて欲しい。だから……わたしがメグを絶対に幸せにしてみせるよ。」


「うんう……んえっ!?それって……!」



街灯のせいじゃない。四葉先輩の顔が真っ赤だ。

嬉しそうな顔もつかの間、四葉先輩の目からポロポロと涙がこぼれ始めた。



「め、メグ……?」


「ぐすっ、ごめんね。嬉しいの……!でも、私、女の子だから……いっちゃんとは結婚出来ないんだよ……?」


「籍を入れるだけが全てじゃない。わたしは、メグがずっと傍にいてくれたら……それだけで幸せだ。」



四葉先輩がえへへ、と笑って少し泣き止んだ。しかし完全に気持ちが晴れた訳では無いようで、それは五木先輩も気が付いているようだった。



「メグ!」


「わわっ!?」



急に五木先輩が四葉先輩を抱きしめた。四葉先輩の顔がこれ以上無いくらい赤くなっている。五木先輩の顔も、きっと赤いんだろう。



「わたしだって諦めたわけじゃない。いつか来るその日を2人で待とう。急ぐ必要は無い、結婚は花と違って、いくら遅くても季節外れになることは無いから。」


「いっちゃん……カッコよすぎるよ……!」



四葉先輩は、五木先輩を押し返すようにして少し離したかと思うと、五木先輩の頬を両手で掴んで引き寄せ、唇を重ね合わせた。



「……!」


「……私ばっかり貰いすぎちゃったみたい。」


「……そんなことは無い。わたしだってメグに貰ってばかりだ。メグはわたしの太陽で、月で、全ての星々で……メグがいないと、わたしは生きていけないから。」


「もう、カッコいいんだから!……大好き、愛してるよ、なぎさ。」


「……わたしもだ、めぐみ。」



と、とんでもねぇバカップルだ……!

ふと愛桜ちゃんの方を見ると、顔を覆っていた。真っ赤だった。それに比べてくれちゃんは目をキラッキラさせて見入っている。

何はともあれ、プロポーズ大作戦は成功……でいいのかな。これで明日からの学校に平常心で挑める。

明日からの先輩達の変化が、ちょっと楽しみでもあるのは秘密だ。

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