第11話 恋人と花は縁深いらしい
何とか四葉先輩には見つからずに大型ショッピングモールに着いた私達。移動中にも特に案は出なかったため、とりあえず探索を始めた。
「メグはわたしに試練を課したのだろうか……。」
「そうなのかも知れませんね。」
「いっちゃん先輩、あそこのぬいぐるみとかはどうだ?」
「ぬいぐるみか。わたしはプレゼントしたことがない。しかし、昔メグからのプレゼントで貰ったことはある。それは今ベッドに置いてあって、いつも寝る時に……。」
あぁ、また四葉先輩の惚気が始まってしまった。
しかし試練か……。確かにそのようにも感じる。だとすれば何のために四葉先輩はそんなことをしたのだろう。
「……で、それはいい案かもしれないな。見に行ってみる価値はあるだろう。」
「あ、はい!」
「いっちゃん先輩〜。このうさぎのぬいぐるみとか可愛くていいと思うぞ!」
くれちゃんが手に取ったのは大きなうさぎのぬいぐるみだった。確かに可愛いが、これでは置く場所に困ることは想像にかたくない。
「くれちゃん、大きすぎると困るんじゃないかな。五木先輩、この熊のぬいぐるみはどうですか?」
「確かに可愛らしい。メグにも似合うだろう。ではそれにし……あ。」
「いっちゃん先輩?」
私から熊のぬいぐるみを受け取りかけた五木先輩は、急にその手を止めた。どうしたのかと顔を見ると、その目は店の端の方を向いていた。
「五木先輩、どうかしましたか?」
「あのぬいぐるみ……。」
受け取ろうとしていた手を引っ込め、五木先輩がふらふらと歩き出す。そしてその手に取ったのは、デフォルメされたお座りタイプの象のぬいぐるみだった。
「わたしの家にあるぬいぐるみと同じものだ。」
「あっ、ならお揃いでプレゼントしたらいいんじゃね?」
「くれちゃん、それいいね!五木先輩、全く同じものより、色違いを送るほうがペア感出ていいかもしれませんよ!」
「あぁ……ああ!そうさせてもらう。」
そのぬいぐるみをプレゼント用にラッピングしてもらい、店を後にする。
うんうん、露骨なラブラブ感にはちょっとイラッとするところもあるけど、大事な先輩達には幸せでいて貰いたいし……いい事したな。
「2人とも、ありがとう。」
「いいえ、当然のことをしたまでですし、五木先輩はきっとひとりでも同じ選択をしたと思いますよ。」
「……そうか。」
「いっちゃん先輩、今嬉しいだろ!段々表情が分かるようになってきたぞ!」
確かに五木先輩の周りの空気が緩い気がする。
こんな五木先輩が見られるなんて、同好会に入ったばっかりの時は思わなかったな。
「面倒ついでに、もうひとつ一緒に考えて欲しい事があるんだ。」
「何ですか?」
「全力で考えるぞ!」
「わたしは口下手だから、メグに伝えたいことがちゃんと伝わるのか自信が無いんだ。どう言えば誤解なく伝わると思う?」
私達は全力で頭を捻った。
別に特別なことはしなくても、四葉先輩なら察してくれるのでは?とは思うが、それは置いておいて。
カッコよく、それでいて誤解なく伝えたいという五木先輩の要望は、私やくれちゃんの頭では叶えられそうには無かった。
「あっ、そうだ!舞雪、愛桜に聞いてみたらどうだ?愛桜なら頭いいし、なんかいい考えが浮かぶかもしれないぞ!」
「それだ、くれちゃんナイス!」
くれちゃんに感謝しつつ、スマホを取り出して早速愛桜ちゃんに電話をかける。
忙しそうだったけど出てくれるのかな、と思っていたが、愛桜ちゃんは2コールで出てくれた。
「もしもし、愛桜ちゃん?」
『何でしょう、舞雪さん。』
「プレゼントはぬいぐるみに決まったんだけど、かくかくしかじかで……。」
『成程、伝えたいことですか。確か、「日頃の感謝と共に、これからもずっとメグを幸せにしたいと伝えたい」と仰っていましたわよね。』
そうだったっけ、と思いながら五木先輩に目配せすると、合っている、と頷いたので、恐らくは合っているのだろう。
「う、うん。」
『でしたら、花を添えてみるのはいかかでしょうか。花束はおすすめ出来ませんが、ある程度ならメッセージを伝えるのに最適ですわよ。』
「愛桜ちゃん凄い!ありがとう!」
『お易い御用ですわ。では、失礼致しますわね。』
電話を切り、内容をシェアして再度頭を捻る。
うーん、あんまりお花には明るくないんだよね。元々の知識が無いので捻ったところで何も出てこない。
「なぁ、だったらカンパニュラはどうだ?可愛い花だし、花言葉は感謝とか誠実な愛とかだったと思うぜ!」
「くれちゃん、詳しいね。」
「母ちゃんが好きな花だから、たまたまだって!」
「カンパニュラか。では花屋に行ってみよう。まず、あるかどうかを見なければ。」
「それでもいいんだけど、プレゼントにするならこっちの方がいいと思うぜ。」
くれちゃんについて行くと、そこは造花屋さんだった。最近のリニューアルでできた専門店らしい。
店頭では、色とりどりの造花が鮮やかに自分を主張している。
「あった、カンパニュラ!いっちゃん先輩、何色にする?」
くれちゃんが指をさしたカンパニュラの造花は本物と見間違うくらいよく出来ていて、色は白、ピンク、青、紫のものがあった。
「ふむ……。わたしは青がいいと思うが、メグはピンクの方が好きだろう。うん、ピンクにするか。」
「ピンクな、はい!」
くれちゃんからピンクのカンパニュラを受け取った五木先輩は、レジへ向かった。どうやらさっきの店のラッピングに上手いこと合わせて欲しいと言いに行ったようだ。
「舞雪はどの花が好きだ?」
「どれも綺麗だと思う。でもあんまりお花には詳しくないから、これだ!みたいなのは無いかな。」
「そっか。じゃあ、アタシこれ買ってくる!舞雪にプレゼントだ!」
「えぇっ、悪いよ……。」
「気にすんなって!」
くれちゃんも猛スピードでレジに向かってしまった。ぼーっとしながらひとりで待っていると、五木先輩が戻ってきた。ふと見ると、ラッピングの中の象のぬいぐるみがカンパニュラを持っている。
「紅葉はもう少しで戻ってくるそうだ。造花を買っていたようだが……。」
「はい、私にプレゼントだそうで。」
「……そうか。舞雪、花には意味がある。気をつけるといい。そろそろメグの家の店が閉まる頃だ。店じまいを手伝うだろうから、帰るなら今だな。」
「……はい?」
「舞雪ー!はい、どーぞ!」
くれちゃんが私にくれた花は紫色の花だった。可愛いというよりは綺麗な花だが、生憎と名前が分からない。
もうお店離れちゃったし、帰ったら調べようかな。私はそう楽観的な考えをしながら家に帰った。
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