第10話 プレゼントはセンスが問われるらしい

6月15日、金曜日。梅雨時で余計にやることが無くなった花壇同好会は、部室で駄弁るだけの毎日を送っていた。



「いっちゃん、私、家の手伝いしないとだから、先帰るね。それとも一緒に帰る?」


「悪いが、この後買い物に行く予定があるんだ。また日曜日に会おう。」


「うん、楽しみにしてるね。ばいばい!」



笑顔で手を振る四葉先輩を見送ったあと、多少柔らかかったはずの顔が強ばって真顔になる五木先輩。

段々慣れてきたけど、やっぱり迫力あるな……。



「その、ドッペルゲンガーズに相談したいことがあるんだが。」


「ドッペルゲンガーズって私達ですか?」


「そうだ。ピッタリのネーミングだろう。」


「そ、そうですね……。」



確かに同じ顔が3人、しかも他人である。ドッペルゲンガーのように見えていても仕方はないだろう。

五木先輩はほぼ分からない程度に口角を上げて微笑んだ。



「実は、日曜日はメグの誕生日なんだ。」


「いっちゃん先輩がさっき、日曜日に会おうって言ってたやつだな!」


「もしかして、2人きりでデートですの?」


「ああ、そうなんだが……肝心の誕生日プレゼントが決まらないんだ。」



誕生日プレゼントくらい、四葉先輩の幼なじみである五木先輩ならすぐに決められそうなものだけど。

やっぱり付き合いの長い幼なじみ故の悩みなのか……。



「いっちゃん先輩、もしかしてメグちゃん先輩にプロポーズでもするのか?」


「ちょっと、くれちゃん!」


「そうですわ。四葉先輩の17歳の誕生日ですのよ?少し早すぎますわ。」



次々にくれちゃんにツッコんでいく私達を片手で制し、五木先輩は少しソワソワした様子で座り直した。



「……紅葉の言ったことは、あながち間違っていない。日頃の感謝と共に、これからもずっとメグを幸せにしたいと伝えたいんだ。」


「ひゅー!」


「つまり、その言葉と一緒に何を渡すのかが決まらないってことですか?」


「ああ、そうなるな。メグの前ではカッコイイいっちゃんでいたいから……。わたしに、協力してはくれないだろうか。」



五木先輩が頭を下げる。その姿からはお願いの本気度が伝わってきて、依然私達もやる気が出てきたのであった。



「わたくしは着いては行けないのですが、何か聞きたいことがあれば連絡をくださいまし。」


「そっか、じゃあ私とくれちゃんで着いていくから、愛桜ちゃんは詰まったら知恵を貸してね。」


「ええ、もちろんですわ。」


「いっちゃん先輩、どこに買い物に行くんだー?」



五木先輩が上下関係にあまり厳しくない人だ、ということが分かってから、くれちゃんはかなり前のめりに先輩と仲良くしていっている。

そんなくれちゃんを満更でも無さそうに五木先輩は受け止めていて、度量の深さを感じる。



「そうだな。まだ何も決められていなくて……、出来る限り幅広い物が見たいんだ。値段は気にするな、わたしはバイトもしているからな。」



五木先輩がしているバイト、というのも気にはなるが今は置いておこう。

私がうーん、と考えていると、ガバッとくれちゃんが手を挙げた。



「じゃーさ、前行った大型ショッピングモールはどうだ?あそこなら色んなモン見れるぞ!」


「それ、いいね!そうしよう!」


「2人に勧められては仕方がないが、あそこへ行くなら駅前は気をつけて通らなければいけないな。」


「何で?」


「メグの家は花屋で、駅前の商店街の一番手前の店なんだ。下手すると鉢合わせしてしまう。それは何としても避けたいんだ。」



五木先輩は何としても四葉先輩の前ではカッコつけたいらしい。プレゼントを買いに行く姿は見られたくないのだろう。



「いっちゃん先輩、それならアタシに任せてくれ!商店街の前を通らずに行ける道知ってんだ〜!」


「そうなのか、では道筋は紅葉に任せた。」


「私……は、色んな案を出します!」


「わたくしはそろそろ帰りますが、連絡をお待ちしておりますので。」


「ああ。頼りにしているぞ、ドッペルゲンガーズ。」



愛桜ちゃん帰った後、電車の時間が来るまで作戦会議をした。出来るだけ四葉先輩に悟られない為、買い物に時間を割かないようにとのことだ。



「参考までに聞きたいんですけど、去年の誕生日は何を送ったんですか?」


「去年はメグに似合いそうな服を数着。その前は目覚まし時計だったな。更にその前は手作りで菓子を作って渡した。」


「意外と普通だな!」


「毎年わたしがプレゼントで悩まなくてもいいように、誕生日前には何かしらのヒントをそれとなくくれていたのだが……今年はそれが無くてな。」



毎年何かしらのヒントって……。

確かにプレゼントを渡さないのは申し訳ない気がするし、かといって何を渡すかとなると悩むものだ。

そこまで想定済みとは、四葉先輩は本当に五木先輩のことを分かっているのだろう。



「じゃあ、アクセサリーとか……?」


「アクセサリーは一番最初のプレゼントだったんだ。ペアの指輪なんだが……。」


「それなら、五木先輩がよく読む本とか!」


「メグは文字を追うのが苦手らしい。前にもお勧めしてみたが、まるで興味が無さそうだったんだ。」


「んー……、あ、じゃあ、カバンとかはどうです?」


「前にあげたことがある。今、メグが通学用に使っているのがそうなんだ。」



ダメだ、聞けば聞くほどバカップルエピソードが掘り起こされてしまって、何も得られない。

時間がかかってしまいそうだが、意外と大型ショッピングモールを練り歩いている途中にふと思いついたりすることもあるだろう。それに賭けよう。



「そろそろ出ようか。時間になりそうだ。」


「おう!」


「はい!」



こうして私、くれちゃん、五木先輩の3人は、例の大型ショッピングモールへ出かけることになったのだった。

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