第9話 席替えは何故か緊張するらしい

段々気温が上がってきた今日この頃、私達の間には若干重苦しい空気が流れていた。



「次の……時間だな。」


「そうですわね……。」


「ねぇ、そんなに構えなくてもいいんじゃない?」


「しかし、わたくし達、離れ離れになるかも知れないんですのよ?」


「……そうだぞ。」



愛桜ちゃんもくれちゃんも、今日は一日中ずっとこんな感じ。ぶっちゃけ私には、そこまで暗くなる必要があるのかどうかは分からない。



「……こんな、席替えくらいで。」


「嫌です、嫌ですわ!どうして席替えはくじ引きなんですの?生徒の意見を募るべきです!」



愛桜ちゃんが大袈裟なくらい怒っている。別にクラスが変わるわけでもないんだから、そこまでの距離は開かないし良いじゃないか。



「愛桜、委員長だろ!何とか出来ないか?」


「もちろん田中先生に相談致しましたわ。でも、授業に集中出来なくなるですとか、いじめがどうだとかで……取り合ってくれなかったんですの!」


「そんな……酷い、酷すぎるぞ……!」



そんな茶番を経て、遂に運命のチャイムが鳴った。

先生がくじの箱を持ってきて、全員引くように言う。私も席を立ち、番号の書かれた紙切れを持ってまた座った。



「舞雪……、愛桜が戻ってきたら、せーので見ような……。」


「あ、うん。隣とはいかなくても、近くの席になれるといいね!」


「……戻りましたわ。」


「来たな、じゃあ行くぞ……。せーの!」



3人同時に紙を出す。私の席の番号は12。なんだ、今の席の隣か……。くれちゃんの番号は6。つまり、愛桜ちゃんの座っている席だ。



「あ、くれちゃん隣だね。」


「ホントか!?ぼっち回避だぜー!」


「くれちゃんは別に友達いっぱいいるし、ぼっちじゃないでしょ。」


「……わたくしは……。」



愛桜ちゃんの持つ紙に書いてある番号は……31。私達の席とは正反対の位置の席だ。

なるほど、これは気まずい。2人はこの空気を危惧していたのか。



「……ま、まぁ、席は離れてしまいましたけれど、クラスは同じなんですし。放課になったら遊びに来ますから……。」


「愛桜ちゃん……。」


「愛桜……無理して平気なフリとか、しなくていいんだぞ。」



強がってはいるが、どことなくしゅんとした愛桜ちゃんの表情に、ちょっといたたまれなくなる。

全員がくじを引き終わったのか、私の列の一番前の人から、黒板の座席表に自分の名前を書きに行っている。



「……気にして、ませんから。」


「……委員長、委員長。」



その時、わいわいと騒いでいたはずの、愛桜ちゃんの隣の席の男子がこっそりと声をかけてきた。その手には紙切れがあり、番号は……。



「5番……!」


「委員長、その2人と離れちゃったみたいだから、これと交換してくれよ。」


「そんな、公平性に欠けますわ……。」



喉から手が出る程欲しい番号だろうに、愛桜ちゃんは公平性のために断った。ルールに忠実なのは、委員長としての責任感からなんだろうか。



「この前、俺が居眠りしてて板書間に合わなかった時にノート見せてくれただろ?それに、いつも俺ら委員長に頼りっぱなしだしな。これはそのお礼。」


「しかし……いいんですの?わたくしの番号の席は出入り口の近くで、しかも一番前ですわよ?」


「気にすんなって。その方が俺も居眠りしないしさ。委員長、名前書く順番もうすぐだし、ほら。」



愛桜ちゃんは決心したように紙を受け取って自分の紙を渡し、ありがとうございますわ、と言った。

男子は満足そうに笑って、何事も無かったかのように、反対側の席の男子との雑談を再開したのだった。



(^ω^)(≧∇≦)(@_@)



放課後、席替えはすっかり完了し、いつもと違う雰囲気が漂っている。

結局、くれちゃんが窓際の一番後ろ、その前が愛桜ちゃん、くれちゃんの隣は私……といったような席順になった。



「……本当に良かったのでしょうか。」


「アイツも良いって言ってたし、良いんじゃね?」


「そうではありませんわ。わたくしだけわざわざ交換していただいて、やはり公平性に欠けるのではと……。」


「まぁ、クラス全員が愛桜ちゃんのお世話になってるし、何もしない方が公平性に欠けるんじゃないかな。」


「……そうですか?」



愛桜ちゃんは日々、学級委員長として色んな雑務をこなしている。先生に頼まれたことからクラスの子に頼まれたことまで、自分が出来ることであれば何でもだ。



「そうだよ。愛桜ちゃんはいつも頑張ってるんだから、たまにはお言葉に甘えたらいいと思うよ。」


「……ふふ、まぁ、たまにはそうしますか。」


「アタシは3人でまた近くの席になったから、それだけで何も言うことないぜ〜!」


「紅葉さん、とっても嬉しそうですし、わたくしも良かったですわ。本当のところ、1人だけ離れて不安でしたから……。」



本当のところというか、どう見たって不安そうな顔をしていたと思うけど。

しかし、愛桜ちゃんのホッとした顔を見ることが出来ただけでとても嬉しいし、あの男子には感謝すべきだろう。



「……あれ?」


「どしたー?」


「いや、何でもない!帰ろっか。」


「ええ。準備は出来ておりますわ。」



私、なんでこんなに嬉しいんだろう……そんなに愛桜ちゃんのホッとした顔が見たかったのかな……?



「舞雪ー!置いてっちゃうぞー!」


「あっ、待ってー!」



2人に並び立つ私。同じ顔をした私達の関係がおかしくなってしまう気がして、これ以上は考えることをやめた。

そう、今は知らないフリをしよう。まだ2人とは友達でいたいから。

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