第7話 ショッピングは乙女の楽しみらしい
もうすぐ6月になろうかという暖かな日の昼休み。私達は机を合わせてお弁当を食べていた。
「なー舞雪、愛桜〜。」
「なんでしょう?」
「ん?」
「今度の土曜日、皆で遊びに行かないか?」
遊びにかぁ。楽しそうだけど、急だな……。
私はともかく、愛桜ちゃんは習い事を沢山しているらしいから忙しいだろうし。
「いいねー!愛桜ちゃんは?」
「あら、丁度その日は何もございませんわ。」
「よっしゃー、決定だな!9時に駅前の謎オブジェの所な!」
愛桜ちゃんの了承が得られ、3人で遊びに行くことが決まった。
くれちゃんは両手を上げて喜んでいる。顔も体格も同じなのに、ちょっと子供っぽく見えてしまうのは、愛嬌の違いなんだろうか。
(^ω^)(≧∇≦)(@_@)
そして待ちに待った、という程でもないが土曜日がやって来た。
程よく早起きができたので、しっかり準備をした上で9時丁度に集合場所に来られた。
「あっ!愛桜ちゃ〜ん!」
「あら、ごきげんよう。紅葉さんはまだ来ていませんわよ。」
「愛桜ちゃん早いね、何時からいたの?」
「ほんの数分前ですわ。舞雪さんが気にする程は待っていませんことよ。」
「そう?なら良かった!」
愛桜ちゃんが微笑んだ瞬間、頭上から声が聞こえてきた。それは紛れもなく私の声……というか、くれちゃんの声だ。
「それは嘘だな!」
「紅葉さん?ど、どこから声が……。」
「とうっ!」
謎のオブジェの周りに生えてる木々、その中のひとつからガサッと音がして、頭に葉っぱをつけたくれちゃんが飛び出してきた。
「アタシ、2人を驚かそうと思って1時間前に来て待ち伏せしてたけど、愛桜は40分前には来てたぞ!」
「ちょっ、紅葉さん!」
「えっ、そうなの?じゃあ私だけが遅かったんだ。待たせてごめんね。」
「いいえ、舞雪さんは定刻通りに来ていましたわ。わたくしが勝手に早く来てしまっただけですので!」
少し顔を赤くして眼鏡をかけ直すフリをする愛桜ちゃんを微笑ましく見つめる。
それにしても愛桜ちゃんは、私服からもお嬢様感が出てるな……。大人っぽいワンピース。眼鏡も相まってカッコ良さが倍増だ。
「じゃあ行こうぜ、アタシについて来い!」
「うん!」
「地の果てまでもついて行きますわ!」
こうして歩き出した私達。行先は近くの大型ショッピングモールだ。
しかし、同じ顔が3人並んで歩いているため、すれ違う人のほぼ全員に振り返られるこの状況はちょっと恥ずかしい。
「すっごい振り返られるね……。」
「わたくしは気にしておりませんが。」
「アタシ、なんか有名人になった気分!どう?オーラ出てる?」
「ええ、とっても。愛玩オーラが出ていらっしゃいますわ。」
「あいがん……。や、やったー?」
意味、分からなかったんだ……。
くれちゃんは仕草こそ子供っぽいが、服装は意外とそうでもない。普通の女の子、という感じだ。
……普通なのに……何故か若干、頭に引っかかる気がしてならない。
「着いたー!ここ、最近リニューアルして、店が増えたらしいんだぜ!」
「そうなんだ〜。昔はよく来てたけど、最近は全然だったから楽しみ!」
「わたくしは初めて来ましたわ。なので、案内はよろしくお願いしますね、舞雪さん、紅葉さん。」
「おう、任された!」
「リニューアルしたらしいから私は力になれるか分からないけど、頑張るね!」
入り口の自動ドアが開くと、お客さんの賑やかな声が聞こえてくる。
相変わらず通りがかる人は大体私達を2度見するが、そんなことは気にしていられない。
「くれちゃん、最初はどこ行く?」
「アタシ、まず『プリティズム』行きたい!」
「おぉ、良いねぇ!愛桜ちゃん、『プリティズム』っていうのはね、可愛い小物とかぬいぐるみが売ってるとこなんだ!」
「あらまぁ、楽しみですわ!」
女子向け雑貨店『プリティズム』に着くと、愛桜ちゃんは目を輝かせながら店の中を散策し始めた。
私達も楽しそうな愛桜ちゃんに続いて店に入る。昔と変わらず、可愛らしい小物が揃っていて、見ているだけでも楽しい。
「あ、あの……紅葉さん、舞雪さん。」
「どうしたの?」
「その……お揃い、なんてしてみませんか?」
「おお、いいな!アタシら顔も声もお揃いだし、更にお揃いが増えてくって、面白いよな!」
「まぁ……!では、このキーホルダーなんてどうでしょうか。」
愛桜ちゃんが手に取ったのは、動物───恐らく猫の形をした、キラキラのキーホルダーだった。
もっと実用的なものを選ぶと思ってたから、ちょっとだけ意外だった。
「可愛いな!愛桜はピンクか……。じゃあアタシはオレンジのやつにする!」
「それなら私は水色!……くれちゃんだけとお揃いじゃなくていいの?」
「ふふ、1年間は恋愛沙汰を差し置いて、3人で仲良しでいたいですから。」
少し気恥ずかしいが、ぎこちなく笑って返す。
猫のキーホルダーをお揃いで購入した後、少し早いがお昼を食べよう、という話になった。
「まだ10時半過ぎですわよ?」
「こういう大型ショッピングモールは、マトモな時間にフードコート行くと座れないから!」
「うん、くれちゃんの言う通りだよ……。」
「そうですのね。では行きましょうか。」
早めに着いたこともあってか、何とか席を陣取ることに成功した私達。食べたいものは各々で注文する、といった形で一時解散となった。
(^ω^)(≧∇≦)(@_@)
お昼ご飯なんていつも一緒に食べているのに、私服で、お外で、といった要因が連なって、特別に感じる。
「結構並んでたし、お弁当でも良かったかもね。」
「でも、たまには皆で外食も悪くないですわ。もちろんお弁当も良いものですが。」
「私、いつもお弁当はお母さんが作ってるんだけど、愛桜ちゃんは?」
「わたくしには専属の料理人がいますので。」
「さっすがー!アタシは自分で作ってんだぜ!偉いって言ってくれてもいーよ!」
「偉いですわね〜、よしよしよしよし……。」
「子供扱いはやめろー!」
そうか、くれちゃんのお弁当、いつも可愛いなと思ってたけど、自分で作ってたんだ。
「……あ。」
気がついた。頭の中の引っかかりの原因。
くれちゃんの着てる服、私が風邪引いた時にうちに来た『私』と同じトップス……。
もしかして、あの時の子は……くれちゃんだったのかな……?
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