第5話 先輩方は歓迎しているらしい
部室のドアを開けると、そこには愛桜ちゃんや四葉先輩はおらず、真ん中に机を寄せ集めたようなテーブルと、それを囲うように椅子が置いてあった。
「……何しに来た?」
一番端の席に、足を組んで座りながら片手で本を読んでる男の人────恐らく先輩がいる。
緊張で話せないでいると、それを察してくれたのか、くれちゃんが私の影から声をかけてくれた。
「ア……アタシらは……友達を、探しに……?いや、同好会の見学に……?……来ました!」
「へぇ。」
四葉先輩とは違って、興味無さげな返答があっただけ。こっちを見ようともしない。無愛想な先輩だなぁ……。
「だから、こっちですわ!」
「え、いや、あっちだってば!」
「いいから来てくださいまし!時間がかかりすぎですわ!」
外から声がする。愛桜ちゃんと四葉先輩の声だ。向かおうとした瞬間、私達の横をスっと通り抜けて、無愛想な先輩が出ていった。
「メグ!」
「いっちゃん!」
「……はぁ、疲れましたわ……。」
くれちゃんと私は愛桜ちゃんに駆け寄る。
なんで私達より先に出て行ったのに、私達より後に到着したんだろう。
「何があったんだ!?」
「あぁ……紅葉さん……わたくしの天使……。」
「アタシは人間だぞ!で、何があったんだ!?」
「四葉先輩……物凄く方向音痴ですわ……。とても……疲れましたの……。」
ぐったりした愛桜ちゃんの横で、先輩方はお話をしているようだ。どうやら四葉先輩が無愛想先輩に事情を説明しているらしい。
「……というわけなの。」
「そうか。」
な、何……?無愛想先輩がこっちに近寄ってくる……。くれちゃんがシビビビってなっちゃってるし、愛桜ちゃんを置いていく訳にも……。
「メグを連れてくるの、大変だっただろ。部室で休んでいくといい。」
「二さん、ゴメンね……!」
意外と優しい無愛想先輩に連れられて部室に戻る。椅子の数は十分にあるので全員座ることが出来た。
「えー、コホン。改めてようこそ!花壇同好会へ!私は会長の四葉恵だよ。メグでいいよ。……で、そっちの子は……。」
「
「いっちゃんはね、私のワガママを聞いて部活を辞めて同好会に来てくれたの。すっごく優しい自慢の幼なじみなんだ〜♪」
「……メグ。」
「おっとごめん。……この同好会の活動内容は、構内の花壇の整備、デザイン、お世話かな。何か聞きたいことはある?」
聞きたいことは無い。……けど、五木先輩が怖すぎる!表情が無いのか、睨んでいるのか……!
「メグちゃん先輩!アタシ、聞きたいことがあるんだ!」
「はい、何かな?」
「その、いっちゃん先輩は、怒ってるのか……?」
き、聞いちゃったぁぁぁぁ!ステイ、ステイだよくれちゃん!
五木先輩の顔がより一層険しくなる。睨まれている気がして、どうしても怖い。
「いっちゃん、後輩が顔怖いよ〜って!ほらほら、笑って〜!」
「む、無茶言うな……。」
「ゴメンね、二さん。いっちゃん表情筋硬くって、緊張するともう表情が動かなくなっちゃうの〜!」
「……アタシは愛桜じゃないぞ。でも分かった!いっちゃん先輩は怒ってる訳じゃないんだな!」
「あ、あれっ!?あなた達3つ子ちゃんじゃないの!?」
そうだった……忘れてた。
私達顔が同じだから、先輩達が見分けられるようになるまで時間がかかるかも……。
「では僭越ながら自己紹介を。わたくし、二愛桜と申します。そして、こちらはわたくしの将来のお嫁さんの……。」
「違うから!アタシは三ノ宮紅葉。で、こっちはアタシの将来のお嫁さんの……。」
「違うけど、私は一ノ瀬舞雪です。全員2年A組。よろしくお願いします。」
これは……事故ったな。自己紹介が事故紹介になってしまった。……つまらないって?そりゃゴメン。
「な、なんかドロドロしてるね!」
「メグ、このドッペルゲンガーズ、入会希望なのか?」
「そうなの〜!これで同好会潰れずに済むね、いっちゃん!」
「……メグが嬉しいなら、わたしも嬉しい。」
わ、わたし!?もしかして五木先輩って女の子だったの!?
……あ、確かにスカート……。なんで気が付かなかったんだろう。全身に纏った近寄り難いイケメンオーラが目くらましになってたのかな。
「いっちゃん先輩女の子だったんだな!男子生徒だと思ってたぜー。」
「くれちゃんっ!失礼だよ……。」
「いや、よくあることだ。気にするな。それに、男子だと思われるくらいのカッコ良さ、だと思えば……凄く嬉しい。」
「おおぉ、いっちゃん先輩、カッケー!アタシもそれ見習って、頑張って舞雪を振り向かせるぜ!」
「紅葉さん、こういうのが好きですか?ならわたくしだって……!」
なんか勝手にバチバチしてるなー、と思いながら頬杖をついていると、四葉先輩が急に机をバンッと叩いて立ち上がった。
「た、確かにいっちゃんはカッコイイけど、それはいっちゃんだから良いっていうか……その、あのね……。」
「だそうだ。悪いが真似厳禁で頼む。わたしのカッコ良さはメグの為だけのもの、だからな。」
「いっちゃん……!」
……バカップルだ。
もしかしてとんでもない同好会に入ってしまったのではないか。この2人がラブラブし過ぎて会員がいなくなってしまったのではないか。
色々な可能性が過ぎるが、あぁ、でも私にとっては居心地は悪くない。
「愛桜ちゃん、くれちゃん。」
「何?」
「どうかいたしましたの?」
「私、この雰囲気結構好きだな。同好会の入会届、提出しに行こうか。」
「うん!」
「えぇ、もちろん!」
こうしてバカップル先輩との出会いを経て、私達は高校生活を続けていくのであった……。
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