第4話 同じ顔でも意見が合わないらしい
高校生活最初の5月になった。
なんとなくやる気の出ないこの時期は、だらりと過ごすのがいつもの通例であった……が。
「ねー、舞雪ー!アタシと部活やろうぜ!」
「舞雪さん、ずるいですわ!わたくしだって紅葉さんと同じ部活がいいというのに……。」
「私……帰宅部がいいな……。」
「ヤダヤダヤダ!一緒の部活がいいのー!」
「こ、子供っぽい言動の紅葉さん……!可愛すぎますわ……!」
愛桜ちゃんが何故だか喜んでいる……。
しかし、早く帰りたいという理由で中学の3年間は帰宅部だった私は、誘ってくれた、ってくらいしか喜ぶことが出来ない。
そもそも熱血だとか、皆で協力して、みたいなのは私はあまり好きではないのだ。
「そもそも、くれちゃんはあっちこっちの運動部で助っ人行ってるでしょ?」
「そうですわね。この間、バスケットボール部とサッカー部からスカウトされてましたし……。」
「えっ、愛桜、な、なんで知ってんの……?」
「……おほほほ。」
いつもクールで真面目な愛桜ちゃんのちょっと怖い部分が見えた瞬間であった。
3人一緒の部活っていうのは私も賛成したいところだけど、妥協点が見つからない。
「じゃあ、バスケ部かサッカー部のどっちか皆で入ろーよ!誘ってくれたんだしさ。」
「わ、わたくし、運動部は少し抵抗が……。」
「私も文化部がいいなー。」
「えぇ〜!体動かす方が楽しいじゃんかー!」
運動好きとはやっぱり相容れない気がする。学校に来て勉強して帰るだけで疲れるのに、そこに運動を追加するとか無理すぎる。
げっそりしていると、愛桜ちゃんが学校案内のあるページを開いて私達に渡した。
「では、吹奏楽部はいかがですか?多少運動もありますし、文化部でしてよ?」
「えーヤダよー!アタシ、譜面読めないし、クラシックとか聞いてると眠くなっちゃうもん!」
「私、この学校の吹部の先生が鬼コワだって聞いたから嫌だな……。」
「そ、そうだったんですわね。先に聞いておいて良かったですわ。ありがとうございます、舞雪さん。」
「いや、別に大したことでもないから良いけど。部活、どうしよっか。」
運動部は嫌だし、文化部は難しそうなのが多いし。
あれ、でも、校内規則では同好会があるって聞いたような。
「ねぇ、同好会は?」
「同好会ですか。何だか謎の同好会がいくつかありましてよ?ええと……宇宙人同好会、時計の針同好会、冷蔵庫の引き出し同好会……なんですの、これは。」
「そんな変なやつ多いなら、アタシら3人だけで同好会作ろうぜ!多分ラクショーに行けるって!」
「うーん、そうだね。くれちゃんの意見に賛成!」
そうそう、一緒に入りたい部活が無いなら、同好会を作ればいいんだ!
確か校内規則のここに載ってたはず……。
「……くれちゃん、非常に言いにくいんだけど。」
「ん?」
「同好会作るのに最低5人はいるんだって……。」
「な、なんだってー!?」
せっかく解決の糸口が見つかったというのに……!
ごめんね、ショック受けちゃったよね、くれちゃん……。
「じゃ、じゃあ、その宇宙人同好会とか時計の針同好会にも5人いんのか……?」
「この資料によると、宇宙人同好会は15人、時計の針同好会は24人いるそうですわ。」
「い、意外といるんだね……。」
「……あら?」
愛桜ちゃんが学校案内のページをめくる手を止めた。一体何を見たのだろう。
「この同好会だけ、人数が2人しかいませんわ。」
「えーっ!?じゃあ、本当は同好会5人いなくても作れるってこと?」
「いえ、恐らくは、誰かがあと3人入らなければ無くなってしまう同好会かと……。」
「なんていう同好会なの?」
「花壇同好会……ですわね。」
花壇か……。お花の世話とかするのかな。
この同好会だったら居残りはそんなに無さそうだし、3人で入れる。
だけど運動部じゃないからくれちゃんは……。
「アタシ、その同好会入りたい!」
「えっ?」
「意外ですわね。紅葉さんはてっきり反対するかと……。」
「だって、母ちゃんが言ってたんだ。花壇の綺麗な学校はいい学校だって。その同好会が無くなっちまったら、この学校の花壇は……。」
「お花が好きなお母さんなんだね。」
「うん!その影響でアタシも花が好きだから丁度いいし、ここに入ろうぜ!」
何だか意外な面を見た気がする。隙あらば私と付き合おうとしてくるところは困るが、やっぱりくれちゃんっていい子なんだなぁ……。
「わたくしも賛成ですわ。舞雪さんは……。」
「もちろん賛成!今日の放課後、見学に行ってみようか。」
「イイネ!決定!」
こうして私達3人は、花壇同好会への入会を前提とした見学を決めた。
(^ω^)(≧∇≦)(@_@)
放課後、勉強から解放された学生たちが騒々しく下校なり部活へ向かうなりする中、私達は2年E組の教室の前にいた。
「や、やっぱり部室棟で待ってるんじゃダメ?」
「だ……だっていなかったじゃん!」
私とくれちゃんは教室の入口の壁に隠れている。私はともかく、くれちゃんはなんで……。あ、運動系だから、上下関係厳しいのかも?
「田中先生から部員のクラスを聞けて良かったですわね。では……。」
「愛桜ちゃん緊張しないの?先輩のクラスなんだよ?」
「ひとつふたつ違う程度で緊張したりはしませんわ。失礼します、
入口から愛桜ちゃんが呼びかけると、暫くしてからおさげの先輩が眠そうに目を擦りながらやってきた。
「え……誰かな……?」
「わたくしは1年A組の
「ホント!?……でも、ごめんね。人数が足りなくて、今月中にあと3人入ってくれないと、うちの同好会は潰れちゃうんだ。二さんが入っても……。」
「わたくしだけではございませんわ。」
愛桜ちゃんを壁にして、私とくれちゃんはおずおずと顔を出す。その瞬間、四葉先輩の顔が輝くように笑顔になった。
「……3人……!」
「わたくし達が入れば5人になり、同好会を守れますわ。そういう訳ですので、まずは見学を……。」
「こうしちゃいられないっ!部室に来て!」
「え?……きゃぁっ!」
四葉先輩は愛桜ちゃんの腕を掴むと、目にも止まらぬ速度で階段を駆け下りていった。
「あ、愛桜!?」
「私達も追いかけよう!」
既に見えなくなってしまった2人を追いかける。
部室棟の中、『花壇同好会』のプレートが掲げられた部屋。ゆっくりとドアを開けると、私達の同好会ライフが始まる音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます