第3話 弱ってる時に優しくされると恋が芽生えやすいらしい
高校生活が始まって、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。私、こと一ノ瀬舞雪は、平日だというのに昨日から家にいる。
「へっくしっ!」
そう、風邪をひいたのである。ピピピ、と体温計が鳴ったので確認すると、38.2℃。
頭がフラフラして、また布団に伏した。
「熱、下がらないわね……。昨日お医者さんに貰った薬、ここに置いておくから飲んどきなさいよ。」
「はーい……。」
母のお言葉に返事をしながら、何もせずにそのまま寝てしまった。そもそも朝だし、起こされれば眠いだけである。
「……すや……。」
( >д<)、;´.・
おっと、昼まで寝てしまった。熱は……37.5℃。だいぶ下がってきたな、よしよし。
「愛桜ちゃんとくれちゃん、どうしてるかな……。」
お腹がすいたので階段を降りてリビングへ向かう。
母は出かけているらしく、凝ったものは望めそうにないので、適当にカップラーメンを食べた。
薬を飲んで、歯を磨いて、熱が下がりますようにとお祈りして、また寝た。
「……ん……?」
夕焼けに染まる私の部屋。薄目を開けると、すぐそばにぼんやりと人影が見える。誰かいる!?
「……誰……?」
段々とハッキリしていく視界で、その人影は私の顔をしていることが分かった。愛桜ちゃんかくれちゃんのどちらかだろう。
しかし、何も付けておらず、私服であるため、どっちなのか全く検討がつかない。
「……愛桜ちゃん……?」
「……。」
彼女は黙ったまま、私の傍らで微笑みかけている。
ど、どっちだろう、聞くのはなんか失礼な気がしてはばかられるし……。
「くれちゃん……?」
「……。」
やはり黙ったまま、私の額に手を当てる。熱が下がったことを確認したのか、ほっと息をつくと、部屋から出ていった。
「……どっち?」
困惑しながらもその姿を見送る。
後でお母さんに聞こうかな、元気な感じだったとか、お淑やかな感じだったとか。
「……熱、また上がってるかも……?」
布団を被り直し、瞼を閉じる。
暫くすると、ガチャッ、とドアの開く音がした。戻ってきたのだろうか。
なんだか体がだるいが上半身を頑張って起こすと、お盆でお粥を差し出された。
「ごめんね、後で食べるよ……。」
体のだるさと食欲を天秤にかけた結果である。
彼女は困った顔をして、お粥を木製のスプーンでひと掬いすると、ふー、ふー、と冷ましてから差し出してきた。
「……あーん……ん、美味しい……!」
彼女は笑顔を見せて、結局最後まで食べさせてくれた。
食べ終わると薬と水を差し出し、飲んだことを確認すると、コップを受け取ってお盆と一緒にドアから出ていった。
「……眠くなってきた。」
私はそのまま寝てしまい、次に目が覚めたのは次の日の朝だった。
昨日の看病もあってなのか、平熱まで下がって、体のだるさも無くなっていた。
「お母さん、おはよー。」
「舞雪、体はもう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。」
お母さんと朝の挨拶を交わし、テーブルにつく。既に用意された朝ごはんを食べながら、昨日のことを思い出した。
「お母さん、昨日誰か来てた?」
「昨日のこと分からないわよ、お母さん遅くなるからって言わなかったっけ?」
「……そう。」
昨日のあれは夢だったのかな……。と思いつつ、朝ごはんの残りをかき込んで、お皿を流しに持っていく。
「……あ、この鍋……。」
洗ったものを置くための水切りトレーには、昨日お粥を食べた鍋が置いてあった。
柄も大きさも、1人用であるところも同じ。
「お母さん、昨日鍋だったの?」
「遅くなったから適当にお惣菜で済ませたわよ?それ、舞雪が食べたんでしょ?」
「……うん、そうだよ。」
話がややこしい方向へ転がりそうだったので適当に相槌を打って家を出た。
まぁ、学校で聞けば分かる事だからそこまで気にもしていなかった、というのはある。
「行ってきまーす!」
ᕕ( ᐛ )ᕗ
教室に入ると、2人はもう先に来ていた。
いつものように席に着いて、おはよう、と笑いかける。
「舞雪おはよー!熱はもういいの?大丈夫?ちゅーでアタシに移しても良いんだよ!」
「よ、良くありませんわ!でも舞雪さん、元気になったようで良かったです。」
「うん、心配かけちゃってごめんね。」
どう見たっていつも通りの2人だ。
どっちかには昨日あんなに世話を焼かせてしまったのに。
「ねぇ、愛桜ちゃん、くれちゃん、昨日うちに来た?」
「昨日?アタシはバレー部の助っ人に行ってたぜ!いつかカッコイイとこ舞雪に見せるからな!」
「わたくしは習いごとの予定がありましたので、直ぐに帰りましたわ。……昨日、お家に誰か来たんですの?」
「……あはは、何でもない!」
あれ、どっちも違う!?
やっぱり夢だったのだろうか、もしくはどちらかが嘘をついている?
いや、愛桜ちゃんでもくれちゃんでも無いそっくりさんかも……?
……もう、気にしたら負けだ。友達を疑いたいわけではないし。
「え、何?舞雪の家に行っていいってこと!?」
「いや、まぁ……別にいいけど、何も無いよ?」
「アタシ、やっぱりご両親に挨拶しに行かないとって思ってたんだ!舞雪もそう思ってたなんて〜!」
「舞雪さん……!?」
「思ってない、思ってないから!」
少しの謎は残りつつも、波乱の高校生活は続くのであった……。
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