第2話 私達の見分けはつかないらしい
入学から1週間、同じ顔をした私達3人はギリギリ友達ライフを送っていた。
「舞雪、アタシのタコさんウインナー食べる?はい、あーん!」
「ず、ずるいですわ!わたくしも紅葉さんにこちらの伊勢海老のグラタンを……!」
「愛桜ちゃん、落ち着いて。くれちゃん、気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう。」
「なっ……アタシの気持ち……受け取ってくれんのか……!?」
「そうじゃないって。」
顔は同じだが、性格も違えばやりたいことも違う私達は、クラスの中で大体のイメージを確立させている。
愛桜ちゃんはお嬢様でお金持ち、そして学級委員長という真面目なイメージ。
くれちゃんは元気で明るくて、運動が得意なムードメーカーって感じのイメージ。
そんで私は────。
「委員長、聞きたいことが──。」
「私、舞雪だよ。」
「えっ、マジでごめん……。委員長ー!」
「くれちゃん、うちの部活助っ人来てくんない?」
「私、舞雪だよ。」
「あれっ、ごめん!くれちゃんどこー?」
人気者2人とよく顔の似ている、クラスの目立たない陰キャ……かな。
とにかく間違われる間違われる。先生方にもかなりの頻度で間違われてるし。
「どうか致しました?」
「愛桜ちゃん……私、めちゃくちゃ2人と間違われるよ……。」
「眼鏡ですとかヘアピンですとか、そういった個人での印象づけって、意外と見られていないものですわよね。」
確かに、誰も気づかなかったから分からないのかもしれないよね!ヘアピンなんて小さいし。
「じゃあ、私、もっと目立つ髪留めを探してくるよ!」
「髪留めですか。」
それから、私を見分けてもらうための印象づけの日々が始まった。
1日目。今日は真っ赤なヘアピンをしてきた。地味な色より見つけられると思うんだ。
「委員長!……じゃなかった……。」
────失敗。
2日目。今日は小さい花の飾りがついたヘアピン。やっぱり飾りがないと分からないものだよね!
「あ、くれちゃ……あー違う……あ、いた!くれちゃん!」
────失敗。
3日目。今日は思い切って大きめのリボンをつけてきた。これで間違われることは無いだろう。
「おい、三ノ宮!その頭のやつはなんだ!」
────失敗。
4日目────失敗。
5日目────失敗。
結局間違われ続けて土曜日になってしまった。
私に印象づけは意味が無いのだろうか。2人と比べてオーラの無さが段違いなんだ、きっと。
でも諦めるのはまだ早い!最後に試してみたいことがあったのだ!
最終日。これがダメだったら諦めよう!着ぐるみの熊の被り物。これなら顔は出ないから間違われることは無いし、すぐに私って分かるでしょ!
「お、おおぅ……舞雪……か?」
「ま、舞雪……さん?」
「オハヨー!」
ふふ、驚いてる驚いてる……。これで印象づけは完璧だね!もう間違われないぞ……!
「先生!なんか熊の被り物したやつが!」
「熊の被り物だと!?誰だー!」
あ、先生に怒られることを考えていなかった……どうしよう。
急いで被り物を脱いで隠してなんとかやり過ごす。
先生が去っていったことを確認して、もう一度被ろうとした瞬間、私の机の上に小包が置かれた。
「舞雪、これ、アタシと愛桜で選んだんだ。」
「紅葉さんとデートが出来たので、手間に関してはお気になさらず。」
「絶対似合うと思うぞ!開けてみて!」
机に置かれた小包をそっと開けると、そこには可愛らしい熊のヘアピンがあった。
何より、わざわざ選んでくれたことが嬉しくて、気づけば私は2人に抱きついていた。
「嬉しい、ありがとう!」
「舞雪さん、変に印象づけをしようとせずとも貴女は貴女ですわ。そのままで充分に素敵です。」
「色んな舞雪が見れて面白かったけど、アタシはやっぱりいつもの舞雪が好きだ!」
ヘアピンをそっと髪につけると、2人がそれを見て笑顔になる。こんなにいい子たちと間違われて、何が嫌だったのだろうか。
「もう私、これしか付けないよ!」
しかし、間違われることを受け入れたその日から私は、2人と間違われることが無くなったのだった。
「不思議だよね〜。」
「熊の被り物をして教室に現れたのですから、それはもう絶大なインパクトを皆に与えましたでしょう。」
「なんか見計らったみたいになっちゃったけど、たまたま熊のヘアピンだったんだぜ?」
「今ではもう熊の舞雪さん、ですわね。」
熊の舞雪さんか、別に悪くないな。
被り物とか持ってるくらい熊グッズは好きだから、寧ろ嬉しいくらい。
「しかし、間違われることをあそこまで気にしていらしたとは。考えが及びませんでしたわ。」
「気が付かなかったよー。お詫びにアタシがギューってしたげる!」
愛桜ちゃんの鬼のような形相にビビり散らかしながら、なんとかくれちゃんのハグを躱す。
「避けるなー!」
「い、1年後、だよ!こらっ!」
ぷく、と頬を膨らませるくれちゃんに一喝。
同じ顔だから、可愛い顔には騙されないのだ。
「でもさ、アタシも結構舞雪と間違われたなー。」
「そうでしたわね。わたくしも間違われていましたわ。もちろん、紅葉さんとも。」
「えっ、そうだったの!?言ってくれれば良かったのに……。」
「わたくし達は別に気にしてはいませんでしたので。成程、角度を変えて考えなければ分からないこともある、ということですわね。」
「あー、何かまた難しいこと言ってらー……。」
そっか、同じ顔だもんね……。
間違われることだって、平等にあるはずだったんだ。私は自分のことで精一杯だったから気が付かなかっただけか。
私ももっと……周りを見て生活していこうかな。
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