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   ⌘


 気が付けばぼくは、基地内の部屋の、窓際に立っていた。

 そして基地を取り囲んでいた、三十億にも達するイワシとヒトデたちが、ザーッとどこかへ引っ張られていくようすを窓から眺めている。

 その行き先は、ずっと遠くに見える、隕石が落下した直後かのように輝いている場所だった。

 そしてふっと我に返ったとき、ぼくは左隣りに、みかんがいることに気が付いた。

 ぼくと手を、ぎゅっとつないだままのみかん。

「あれって、フットとルキンが空けた穴かな?」外を見ながら、みかんにぼくは尋ねた。

「多分、そうだと思う」

「じゃあここってついに、死後の世界?」

「ううん、現実だと思う」

「……だったらぼくたち、どうして無事だったのかな。みかんがフットに、テレポートのコマンドをしてくれたとか?」

「してないよ」

「だよね。だったら、ルキンとフットも一緒のはずだし……」

「——でも、テレポートはしたと思う」

「え、誰が……?」

「フットが、自分から」

「自分から? そんなことができるの?」

「多分だけど、先に連結を切ったからできたんだと思う。フットと、ルキンちゃんの方から」

「連結を、ルキンたちから……?」

 ぼくは連結について、ルキンと話したことを思い出した。

 聞きそびれてしまったけれど、確かにクアット側から切れる場合があるようなことを言っていた。

 そうして切ってしまえば、コマンドされなくても、クアット自らの意志で、行動できるのにも納得がいく。

「うん、ルキンちゃんたちから」とみかんが答える。「そしてわたしたちをここに運んでから、すぐにね、フットはまた、ルキンちゃんの元に戻ったんだ」

 何も言えないぼくにみかんが続ける。「しかもねミズト。フットは、パパだったんだよ」

「……みかんの、おじさん?」

 ぼくは、思い出の世界の中で、みかんを刺そうとしたときに止めてくれた、不思議な上着を着た大人の男の人を思い出した。

 ——思い出した。

 あの人は、確かにみかんのおじさんだった。

「うん。そう。わたしのパパ」とみかんが応えた。

「……でも、どうしてわかるの?」

 みかんはつないでいたぼくの手を、両手で包み込むように握ったあとで、そっと離しながら言った。

「だってミズト、だってここ、『お母さんの前』だもん……!」

 みかんがわっと泣きだしながら、ぼくらのすぐ後ろで、信じられないというような顔でぼくらを見ていた、車椅子に乗っているおばさんに抱きついた。

 ——そう、フットのテレポート能力は、互いの心の一部を共有する者、つまりは愛し合っている存在同士の下でしか、発動できないのだ。

 つまりみかんのおじさんだったフットは、最後の最後で、みかんとぼくを、おじさんと今もなお愛し合っているおばさんの下まで、飛ばしてくれたのだ。

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