3-21
⌘
気が付けばぼくは、基地内の部屋の、窓際に立っていた。
そして基地を取り囲んでいた、三十億にも達するイワシとヒトデたちが、ザーッとどこかへ引っ張られていくようすを窓から眺めている。
その行き先は、ずっと遠くに見える、隕石が落下した直後かのように輝いている場所だった。
そしてふっと我に返ったとき、ぼくは左隣りに、みかんがいることに気が付いた。
ぼくと手を、ぎゅっとつないだままのみかん。
「あれって、フットとルキンが空けた穴かな?」外を見ながら、みかんにぼくは尋ねた。
「多分、そうだと思う」
「じゃあここってついに、死後の世界?」
「ううん、現実だと思う」
「……だったらぼくたち、どうして無事だったのかな。みかんがフットに、テレポートのコマンドをしてくれたとか?」
「してないよ」
「だよね。だったら、ルキンとフットも一緒のはずだし……」
「——でも、テレポートはしたと思う」
「え、誰が……?」
「フットが、自分から」
「自分から? そんなことができるの?」
「多分だけど、先に連結を切ったからできたんだと思う。フットと、ルキンちゃんの方から」
「連結を、ルキンたちから……?」
ぼくは連結について、ルキンと話したことを思い出した。
聞きそびれてしまったけれど、確かにクアット側から切れる場合があるようなことを言っていた。
そうして切ってしまえば、コマンドされなくても、クアット自らの意志で、行動できるのにも納得がいく。
「うん、ルキンちゃんたちから」とみかんが答える。「そしてわたしたちをここに運んでから、すぐにね、フットはまた、ルキンちゃんの元に戻ったんだ」
何も言えないぼくにみかんが続ける。「しかもねミズト。フットは、パパだったんだよ」
「……みかんの、おじさん?」
ぼくは、思い出の世界の中で、みかんを刺そうとしたときに止めてくれた、不思議な上着を着た大人の男の人を思い出した。
——思い出した。
あの人は、確かにみかんのおじさんだった。
「うん。そう。わたしのパパ」とみかんが応えた。
「……でも、どうしてわかるの?」
みかんはつないでいたぼくの手を、両手で包み込むように握ったあとで、そっと離しながら言った。
「だってミズト、だってここ、『お母さんの前』だもん……!」
みかんがわっと泣きだしながら、ぼくらのすぐ後ろで、信じられないというような顔でぼくらを見ていた、車椅子に乗っているおばさんに抱きついた。
——そう、フットのテレポート能力は、互いの心の一部を共有する者、つまりは愛し合っている存在同士の下でしか、発動できないのだ。
つまりみかんのおじさんだったフットは、最後の最後で、みかんとぼくを、おじさんと今もなお愛し合っているおばさんの下まで、飛ばしてくれたのだ。
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