3-19


   ⌘


 けれどもそれは、決してレヴィの両腕に、引き裂かれたからではなかったのだ。

 そうではなくて、カウントダウンのゼロをきっかけに、一気にレヴィの三倍ぐらいまで膨れ上がったルキンが、全身をフットに武装化してもらったその直後、とある目的のために、自分から顎を開ききったためだったのだ。

 そしてその目的というのは——

〈な……はじめから、私を呑み込むつもりだったのか……!? 幼体どもの命を犠牲にして……!?〉

 ——そう、たった今レヴィの言ったことこそが、ルキンの真の目的で、そしてそれこそがみかんが立てた、『ぼくらの命を、引き換えにする作戦』でもあったのだ。

 そうしてフットのシールドで武装化ならぬ、コーティングしたルキンのお腹の中に、レヴィをぴっちりと完全に閉じ込めて、ルキンとフットに、可能な限り小さくなってもらって、レヴィをみかんとぼくごと、小さく小さく、ものすごく小さく圧縮してもらって、目に見えないくらいのミクロサイズではあるものの、圧倒的な温度と磁力と重力を持つ、中性子星を造りだしてもらうことが。

 そしてその最強のシールドでコーティングされた中性子星を、火星の地下の奥の奥の、そのちょうど中心の地点に、『永久に封印』することこそが。

〈さ、させるものか……!〉

 言ったレヴィが、ドンッとルキンよりも大きくなったようすが、上下があべこべになっている視界の端に見えたけれど、瞬時にルキンが、やっぱりその三倍ぐらいまで、ドドンッ! とわずか一瞬で大きくなったことが、空間の膨張具合でわかった。

 ——直後。

 ギャバウッ! と口の内側をくねらせながら、完全にレヴィをぼくらごと丸呑みにしたルキンが言った。

〈レヴィよ。分裂した今だからこそ、オレさま——いや、『我々』には、お前の気持ちがわかる。己のおかした、罪の重さがはっきりとわかる。お前に復讐心を抱かせたのは、誰でもない、我々の責任だったことが……すまなかった〉

 一転ギューッと縮み始めたルキンのお腹の中で、めちゃくちゃにもがいているらしきレヴィが応える。

〈い、今さら、何を……〉

 ぼくはルキンとレヴィの会話を聞きながら、もがいているレヴィからみかんを守るべく、レヴィを背にしてみかんの方を向いた。

 ルキンがまだ完全に口を閉じきっていないおかげで、レヴィとぼくらの位置関係だけは、どうにか把握することができていたからだ。

 どうせすぐに押しつぶされて死んでしまうのだけど、みかんに怪我をさせて、余計な痛みを感じてほしくなかったからそうしたのだ。

 と。ルキンの口が完全に閉じられたらしく、まったく何も見えなくなった。

〈さあ、レヴィ〉とルキンが言った。〈共に行こう——行かせれくれ。我々のマスターがそう言っている。望んでいるのだ〉

 伝わるはずもないのだけれど、ぼくはルキンの言葉に頷いた。

〈ど、どこにというのだ……!?〉

〈——はじまりの、場所だ〉

 次の瞬間だった。

 ぐ、ぐおおおおおおおっっっ! というそれまで以上に暴れ回るレヴィの怒号が、すぐ後ろで響き渡った。

 その際の衝撃で、ぼくはみかんの手をうっかり離してしまったけれど、でももう片方の手は、まだしっかりと握り続けている。

 そしてぼくたちは、どんどんどんどん圧縮されながら、火星の真ん中めがけてぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんと落下し始めて、今もまだ落ち続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る