3-12


   ⌘


 ぼくは、ルキンの名前を呼んだ。

 あと、みかんとフットの名前も。

 何度も、何度も。

 気が付けば、叫んでさえいた。

 でも返事は、一切返ってはこなかった。

 あまりにも周りの闇が濃すぎて、深すぎて、自分が声を出したのかどうかも、すぐにわからなくなるほどだった。

 一歩一歩、確かめるようにすり足気味で歩いてゆく。

 ——ふと、一軒の家が、目の前に巨大な写真を置かれでもしたかのように、とっと現れた。

 そのようすが、まぶたの裏っかわで泳ぐルキンのように、黒い画用紙の上に、切り抜き写真を置いたように見えている。

 よく見ると、コンクリートでできた門の両脇に、白い花で編まれた大きな花輪が一本ずつ立っていて、誰かの葬式が行われていることがわかった。

 ぼくは、近づいて標札を見た。

 そこには、板鰓と書かれていた。

 ぼくの家だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る