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   ⌘


 レヴィの頭上で光って見えたものの正体は、流星だった。

 そしてルキンには、レヴィがやろうとしていることがわかったようだ。

〈衛星フォボスのカケラを使って、攻撃を仕掛けてきたヨ〉

 つまりぼくらの祖先の地球の神さまは、火星の衛星であるフォボスを拠点ハブとして使っていたということなのだろう。

 ぼくはフォボスに、人工衛星説があると聞いたことがあるのを思い出した。

 それは半ば都市伝説扱いされている話題だったけれど、ある意味当たっていたということだ。

 とそれはともかく。

〈大きさはどれくらいなの?〉とぼくはルキンに尋ねた。

〈直径三十mだヨ〉

〈だったら大したことないんじゃ……?〉

〈三万人が死ぬくらいだヨ〉

〈……。それってどこに落ちるの? ここにじゃないよね?〉

〈ミズの住む、居住区だヨ〉

「な……」

 ぼくの反応を見た叔父さんが尋ねてきた。

「もしかしてルキンが、何か言っているのかい?」

「レヴィがフォヴォスのかけらで、ぼくらの居住区を狙ってるって……」

「なんだって……?」

 ぼくはルキンに尋ねた。

〈ねえルキン、どうにかして、止められないの……?〉

〈ルキンが行けば止められるけど、基地の全員を爆発で失うヨ〉

 ぼくはルキンの意見を叔父さんに伝えた。

「居住区を救うなら、基地の全員の命と引き換えだって……」

「そんな……」

 叔父さんはそれ以上何も言わなかった。

 言えなかったんだろうと思う。

 と。皮肉にも、綺麗な光の尾を引いて、ぼくらの居住区に近づいていく衛星フォボスのかけらをモニター越しに見つめながら、うわごとのようにみかんが言った。

「——わたしが、わたしがあそこに行ければ、フットでみんなを守ってあげられるのに。わたしが……」

「みかん、みかんのせいじゃないよ……」ぼくは言った。

「でも、わたしは助けてあげられるのに。メイジちゃんを。みんなを……」

「……」

 何も言ってあげられないぼくを見ながら、意を決したというような口調でみかんが続ける。

「ねえミズト、わたしがフットで基地のみんなを守るから、爆弾を爆発させよ? そして居住区を助けに行こ?」

 ぼくはさっきルキンに言われたことを、みかんに伝えた。

「必ず成功するならその手もあるけど、失敗したら、基地の全員の命も、居住区の人たち全員の命も、どっちも失うことになるよ……?」

「じゃあ、もうどうしようもないの……?」

 またなんにも答えられないぼくからみかんはくっと顔を逸らし、スカートの紐がかかった両肩を小さく震わせながら、ぎゅっと目を閉じた。

「お願いフット、みんなを守って。わたしはどうなってもかまわないから。お願い……」

「みかん……」

 思わずぼくが、みかんの肩に手を置いた、瞬間だった。

 突然、理解不能な出来事が起きたのは。

 周りの景色がパッと切り替わり、気が付けばぼくとみかんは、見慣れた校庭の端にある、テニスコートに立っていたのだ。

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