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   ⌘


〈ミズ、気をしっかり持つヨ〉

〈? レヴィのこと?〉

 ふいに話しかけてきたルキンに、声を出さないままでぼくは答えた。

 会話がみかんにも聞こえているのかなと思ったけれど、みかんだったら別にいっか、と思いながら。〈それなら、大丈夫だよ?〉

〈ルキンが言っているのは、明日のことだヨ〉

〈明日のこと?〉

〈かーさまはもういないことを、忘れないでだヨ〉

〈……でもレヴィは、お母さんなんだよね?〉

〈心までは、そうじゃないヨ〉

〈心までは……? ねえ、前から思ってたけど、ルキンには未来とか、本当のことが見えたりするの?〉

〈少しだけだヨ〉

〈見えるんだね?!〉

〈と言うよりは、みんな気付けないだけで、本当は見えてるよ。ルキンはたまたま、気付けるだけだヨ〉

〈そうなんだ?〉

〈それに、間違うこともあるヨ〉

〈それでもすごいよ、未来が見えるなんて……! ねえ、二十四時間経ったら、全部思い出して、ちゃんと話せるようになるんだよね?〉

〈……だヨ〉

 と、どことなくためらいがちにルキンは答えたけれど、そのことをはっきりと認識できないままにぼくは続けた。

〈ぼく、ルキンにいっぱい訊きたいことがあるんだ。だからそのときがきたら、教えてくれる? あと、十八時間後くらいだよね?〉

〈いいヨ〉

〈あ、とりあえずこれだけは今教えて。知ってたら。レヴィってどういう意味なの?〉

〈Livyatan melvillei《レヴィアタン・メルビレイ》〉

 やたらといい発音で言ったルキンにぼくは尋ねる。

〈それってあの、レヴィアタン・メルビレイのこと……?〉

〈その、レヴィアタン・メルビレイだヨ〉

 レヴィアタン・メルビレイとは、古代の地球の海に住んでいた、クジラの祖先のことだ。

 あまりにも巨大で獰猛なそのイメージが、伝説の海獣リバイアサンと、メルヴィルという大昔の作家が書いた、白鯨はくげいという小説に出てくる、モービー・ディックという鯨に重なっているところから、リバイアサンの正式名称であるレヴィアタンとその作家メルヴィルの名前をくっつけて、レヴィアタン・メルビレイという名前を冠されたそうだ。

 その見た目を一言で言うと、牙のある、巨大なマッコウクジラというところだろうか。

 メガロドンと同じ時代の海に住んでいて、身体の大きさや力も同じくらいだったことから、メガロドンの唯一のライバルとされていたらしい。

 つまりレヴィは、レヴィアタン・メルビレイのクアットを持っているということなのだろうか?

 その辺を深掘りしたかったけれど、ルキンはもう、姿を消したあとだった。

 そしてぼくたちは、基地に到着した。

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