2-22
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「え……?」
混乱を通り越して、完全にわけがわからないままにぼくは尋ねる。「だってレヴィは、子どもだよね……?」
「そうだね。でもDNAが、レヴィがミズトくんの母親——ノイ姉ちゃんなことを証明してるんだ」
「DNA?」
「レヴィが研究所に残していった、煙草のフィルターに付いていた唾液と、ミズトくんの毛髪を使ってね、知り合いの信用できる人物に鑑定してもらったんだ。結果は99•999%の確率で、二人は親子ということだった……」
どう反応していいかわからなかったぼくは、パッと頭に浮かんだ疑問をぶつけた。
「……でも、どうして鑑定しようと思ったの?」
「ミズトくんは知らないかもしれないけれど、わふなという名前はね、おれたち
「……本当に、そうなの? 何かの、間違いじゃないの?」
ぼくの質問に叔父さんが答える。
「世の中に絶対はない。そういう意味じゃ、間違いの可能性もあるだろう。だが現実的に考えて、レヴィはノイ姉ちゃんだと思って間違いはない」
だんだん話が頭に入ってきて、信じられない度合いが高まってきたぼくは食い下がった。
「……でもさ、お母さんは死んで、灰になったんじゃないの?」
「実は母さんは、行方不明だったんだ」とそこで助手席のお父さんが言った。
「……そうなの?」
「ああ。ミズトがまだ、三歳だったときのことだ。その頃の母さんは、家で、独自に研究の続きを行なっていた。どこからか調達してきた器材を使って、こっそりとな。母さんは日ごとに無口になると同時に、だんだんと痩せ細っていって、おれは心配でたまらなかった。が、母さんには研究しかないことを知っていたおれは、好きにさせることにした。一度は止めさせようともしたんだが、だったら死ぬと言って、脅される始末でもあったからな。そんなある日、母さんは突然車で家を出て、それきり戻らなかった。目撃証言によると、飲酒運転を越えて、まるで夢遊病患者が運転しているかのようなふわふわとしたハンドルさばきで、居住区の外へ出て行ったということだ。軍が設置している防犯カメラにも、その姿が残されていた。出て行く姿だけがな。知っての通り、火星の居住区外は、赤い岩石の荒野と砂の平原が広がる、人間にとっては死の大地だ。一日の気温のほとんどが氷点下で、重力は弱く、酸素もない。母さんは酸素マスクを着けていたという話だが、それは三時間も持たない簡易型のものだった。それで母さんは、認定死亡という形で、死亡したことになったんだ」
「……捜索は、したんだよね?」
「もちろんだよ」ぼくの質問に叔父さんが答える。「ノイ姉ちゃんは、人口の少ない火星に異動させられたとは言え、国の重要人物でもあったからね。むしろ一般の人間よりも、徹底的に捜索されたよ。けれどもね、見つからなかったんだ。確証はないが、マリネリス峡谷に車ごと落ちたんじゃないかということだった」
「すまないミズト」お父さんが言った。「このことはもしかしたら、まだ言わないでおくべき事実だったかもしれない……」
「大丈夫だよ、お父さん」ぼくはみかんの口癖を真似た。「ぼくは、知れてよかったよ。でも、どうしてお母さん——レヴィは、若返ってたのかな」
「真実はノイ姉ちゃんにしかわからないことだが、おそらくはQUAが関係してるはずだ」叔父さんが言った。「QUAには治療効果があることはすでに証明済だから、それを元に考えると、純度の高いQUAを体内に注入すれば、細胞が若返るということもあるかもしれないからね」
「そうか、そうだね」
「しかし、これで謎が解けたよ」と叔父さんが続ける。「レヴィが最新型の海竜クアットをごく短期間で開発できて、それに物質透過機能まで実装できていたわけが。姉ちゃんの頭脳があれば、いたって簡単なことだったろうね。そこへレヴィのマクロ的な高い知恵と意識が加われば、なおさらのことだろう」
と。隣りのみかんが、そっとぼくの手を握ってくれた。
大丈夫、大丈夫だよ。
聞こえなかったけど、そう言ってくれているのが、不思議とはっきりわかった。
だからぼくも、大丈夫だよ、と手のひらで言い返した。
でも、本当はあんまり大丈夫じゃなかった。
そしてぼくは、ルキンに乗りながら聞いたみかんの言葉を、ふっと思い出した。
「闘うしかないのかな?」という言葉を。
そして考えるふりをしながらも、闘う気満々だった自分に、今さらながら気が付いた。
そのことを軽く、まるでゲームでもするように考えていたことに、はたと気が付いてしまったのだ。
自分のお母さんと闘わないといけないのだと知った今になって、ようやく。
——でも実際は、それさえも甘い覚悟だったのだ。
そのことを、ルキンがそれとなく教えてくれたのは、いよいよ基地に到着する、少し前のことだった。
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