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 叔父さんは、ここへ来る前にお父さんと話していた通り、五分も経たないうちに戻ってきた。

 そして戻ってくるなり、ぼくに被せていた自分のキャップを取ると、持っていたぼくのキャップをグイッとぼくに被せた。

「終わったよ。一旦研究所に戻ろうか」

「レヴィの身体の持ち主は、わかったの?」

 キャップの位置を直しながらぼくが尋ね、いつものようにキャップを後ろ向きに被りながら叔父さんが答える。

「それは帰ってから話すよ。雄人さんと、みかんちゃんのお母さんにも話したいし」

「わかった」

 そうしてぼくらは来たときと同じように、叔父さんはハーレーに、みかんとぼくは、アオザメルキンに乗って研究所に戻ったけれど、ちょうど軍の人たちが大勢やって来ていたところだったから、とても話を聞けるような雰囲気じゃなくなっていた。

 ちなみに軍の人たちは、全員が迷彩柄の戦闘服に身を包んでいて、そのほとんどの人たちが似たような色のヘルメットと防弾ベストを装着していて、そのすべての人の肩にはしっとりとマットに輝く最先端の黒い突撃銃アサルトライフル小機関銃サブマシンガンがぶら下がっていて、中には暗視装置付きの黒いゴーグルや、筋力をこれでもかとアップできるパワードアームやレッグまでをも装備している人もいたりして、ぼくの男の子ごころをおおいにそそったけれど、それ以上にレヴィのことが妙に気になっていたぼくは、隙を見て叔父さんにこう尋ねた。

「叔父さん。レヴィの身体の、持ち主の件は?」

「これからみんなで、火星の基地に、避難することになった。今日はもう遅いから、基地で一晩ゆっくりと休養しよう。レヴィの身体の件は、明日の朝に話すよ」

 どことなく答えを引き伸ばそうとしている叔父さんの気配に、もどかしさと胸騒ぎを覚えながら、気が付けばぼくは言っていた。

「いやだ。今教えて」

 隣りにいたみかんがぼくを見て、叔父さんが少しうろたえた。

「ミズトくん……」

「よくわかんないけど、わかるんだ。叔父さんがなんか、ぼくに遠慮してることが。もしかしたらレヴィの身体の持ち主は、ぼくの知らない、ぼくの妹だったりするんじゃないの?」

 自分でもほとんど思ってもみなかったことをぼくが言いきったその瞬間、叔父さんが確かにハッと息を呑んで、すぐ近くにいたお父さんとみかんのおばさんに、目配せをした。

「わかったよ」と、ぼくの目を見ながら叔父さんが言った。「じゃあ基地へ移動する途中の、車の中で話そう。それでいいかい?」

「いいよ」とぼくは答えた。

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