2ー12


   ⌘


 ぼくは両足のないおばさんの上半身を抱きかかえながら泣き続けている、みかんのそばに立った。

 もちろん、声なんてかけられるはずもない。

 お父さんの首の骨はルキンがQUAで治してくれたけれど、おばさんの足は、ルキンの言う通り粉々になってしまったせいで、結局治すことができなかったからだ。

「足は残念だったわね、檸檬れもん夫人」

 人間サイズのハンマーヘッド・シャークの姿に戻ったルキンが、いつかのホオジロザメのように、みかんのおばさんの脇で頭を下にして、垂直になりながら言った。

 みかんが心を許しているからだろうか、不思議とルキンは、シールドの内部に入ることができていた。

「あなたがいなければ、とっくにみんな死んでいたわ」とおばさんがルキンに応える。「ところで、わたしの名前を知っているのね?」

「ええ、ずっとミズトの中にいたからね」

「でもあなたは、なんだか懐かしい感じがするわ」

「自然なことよ。わたしたちはかつて、ひとつだったから」

「ひとつ?」

「母さん、母さん……」

 おばさんがにっこりと笑いながら、泣き続けているみかんの頬を、指の背で優しく撫でた。

「大丈夫、大丈夫よみかん。母さんは生きてるから。ルキンとみかんが、守ってくれたから。あなたが、無事なんだから……」

 ——そう、みかんの大丈夫だよという口癖の大元は、みかんのおばさんにあったのだ。

 そんな当たり前のことに、今さらながらに気が付きながら、ただただみかんを見ていることしかできないぼくや叔父さんやお父さんの前に、わふなちゃんが姿を現した。

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