2ー11


   ⌘


 思わず目を開けてみると、折れてしまった白い牙をボロボロと口からこぼしながら、天井の穴からいそいそと逃げ泳いで行くモササウルスたちと、ひゅーんと弱々しく首を引っ込めてゆく首長竜の姿が、ぼんやりと黒く光って見えた。

「何が、起こったの……?」

 ぼくの呆然とした独り言に、首長竜たちと入れ違いにハンマーヘッドの姿になりながら戻ってきたルキンが、不敵な調子で答えてくれた。

「みかんが、やってくれたようね」

「みかんが? 何を……?」

「エキジットさせたのよ。最強のシールドを」

「最強の、シールド……?」

 見てみると、みかんが両足のないおばさんを守るような格好で、ぎゅっと顔をしかめて、泣きながら背中を丸めている姿が見えた。

 そのみかんを中心に、よく見ると大きなカタツムリのような巻き貝の形をしている、キラキラと輝きを放っている半透明の黒曜石のような何かが、ぼくたち全員をすっぽりと包み込んでいた。

「そ、そうか……」とその何かを見上げながら、震える声で叔父さんが言った。「深海博士は、防御用クアットの担当だったんだ。それが完成していたということか……!」

 ぼくは涙をTシャツの袖で拭った。

「それってつまり、みかんの中にも、ぼくと同じように、クアットが……?」

「そういうことだろうね。それがみかんちゃんの涙によって具現化されて、おれたちを守ってくれたんだろう……」

 とそのとき、三頭のモササウルスたちが、さっき以上の猛スピードで、天井の穴から真っ逆さまになって襲いかかってきたけれど、ぼくたちをすっぽりと包み込んでくれている、巻き貝型の黒く輝く半透明のシールドは、びくともしなかった。

 むしろみかんがさらに顔をしかめながら、背中をくっと丸めたその瞬間、光の強さがグッと増して、噛み付いてきた一頭のモササウルスの牙を折るどころか、その顎の付け根までもを、めりめりめりめりっと裂いてしまったほどだった。

「ふうん、なかなかの硬度ね。咬合力六千ニュートンのモサが、あのザマなんて」

 またしても口から白い牙をボロボロとこぼしながら、うち一頭は、裂けた口からじんわりと紅い血をも滲ませながら、いそいそと穴から逃げ泳いで行く三頭のモササウルスたちを見上げつつ独りごちているルキンにぼくは言った。

「ルキン、今のうちに、敵をやっつけられる?!」

「誰に言ってるの?」とルキンが言った。「コマンドさえくれれば、いくらでも」

「だったらやっつけて! 一頭残らず!」

 ぼくがそう怒鳴り終えた頃には、ルキンはもう天井の穴から、外へ飛び泳いで行っていた。

 噛みちぎられた首長竜の首付きの頭が、ずーんと音を立てながら庭に落ちたのは、そのあとたった数秒後のことだった。

 それはルキンの言っていた通り、きっかり五秒間だったと思う。

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