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   ⌘


 自嘲気味に叔父さんは続けている。

「火星に住んでいる人たちには悪い言い方になるが、昔で言う、島流しってところだよ。今で言うと、左遷とも言うべきか。おれがここへ来たのも、同じ理由さ。三人とも、それまでの功績を認められたのか、はたまた未来のために飼い殺しておきたかったのか、それまで通り、給料こそもらえることにはなったものの、クアット関係の仕事は全部、取り上げられてしまった」

「でも、どうしてぼくの中に、ルキンを……?」と気になってぼくは尋ねる。

「それには、いくつかの理由がある」叔父さんは真面目な顔になった。「ひとつは、見せしめのためだろう。軍には、クアットに反対する勢力もいたからね。そしてもうひとつの、確かな方の理由は、ノイ姉ちゃんにXXを、壊させないためだよ。開発者の実の息子の肉体及び、精神に封印——深く紐付けておけば、さすがにそうは、できないだろうからね。つまり軍は、XXを、あきらめきれなかったんだ。だから壊すことなく、退化させて、ミズトくんに封じ込める方法を選んだ。いつか取り出して、実用化できる可能性にかけてね。ただ……」

 そこで叔父さんは言葉に詰まったけれど、一度唾を飲み、大きく息を吸い込んだあと、何かをあきらめるように、ふううっと吐き出したあとで先を続ける。

「……ただ、軍はここへきて、急遽、XXの処分を決定した。のみならず、関係者を含めた、全員の処分もだ。つまり軍は、おれたちに……死ね……と言ってきたんだ。そしてその猶予期限が、今日いっぱいだった。だから今夜、おれたちはみんなで、誇り高く、自ら死ぬ予定だった……」

「……ぼくたちは全員、死ぬために研究所へやって来たの?」

 ぼくの質問に、哀しげな視線を向けながら叔父さんが答える。

「ああ、そうだよ」

「そうしなかったら、どうなるの?」

「処刑されることになっている」

「その命令は、正確にはいつ出たの?」

 そう尋ねると、叔父さんは意外そうな顔で訊き返してきた。「今日の十九時頃だが、何かあるのかい?」

「ううん、ちょっと気になっただけ」

 本当は神かくし事件と処刑命令が、何か関係があるかどうかを確かめるためにそう訊いてみたのだけど、時間からして、とりあえずはなさそうだった。

 途端に積もり始めた、ホコリのような沈黙を払いながらぼくは言った。

「でも叔父さん、お母さんとみかんのおじさんは、軍の人に命令されて、仕事としてルキンを作ったんでしょ? なのに命を差し出すまでの責任を負わされるのって、なんか、ズルくない……?」

「ああ、ズルいさ」すぐさまはっきりと叔父さんは言った。「ズルすぎるくらいだよ。でもおれたちは、そういう世界で生きてるんだ。どうしようもないんだよ……」

 言い終えた叔父さんが、テーブルに肘をつきながら、両手を添えた頭を怖いくらいにガシガシと振って、それからしばらくの間、誰も、なんにも言わなかった。

 ——突然、外から何台かの車が走るような音が、途切れることなく聞こえ始めて、慎重に立ち上がった叔父さんが、大きな窓の窓際に行って、そっとカーテンを半分開けた。

 開けてみると、ちょうど窓の前を、一匹の巨大な『海竜』が、通り過ぎようとしていたところだった。

 魚類とは少し違う、肺呼吸をする、古代の海の爬虫類。

 部屋にいるぼくらの全員が、盗難防止用のセンサー式ライトに照らされた、その海竜の、巨大なワニのそれのような眼球を見た。

 でもそれは、ワニじゃなかった。

 窓を通り過ぎたときに、手足が巨大なヒレのようになっているのがわかったからだ。

 ぼくの記憶が確かならば、それはいつかの恐竜図鑑で見たことがある、モササウルスという名の、凶暴すぎる海竜だった。

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