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「みか、ん……?」

 肘から先の両腕がないみかんが、呆然とした顔で前かがみにどっと崩れ落ちるのと、ホオジロザメが斜め上空に向かって泳ぎながら、噛みちぎったみかんの二本の腕を飲み込んだのは、ほぼ同時だった。

「みかん!」

 ぼくは地面を両手と両足でグッと押さえて、跳ねるように立ち上がってみかんの元まで駆け寄ると、膝をついてみかんの上半身を抱え込んだ。

「みかん! みかんみかんみかんみかんっ!」

 きっとものすごく痛くて怖いのだろう、眉をぎゅーっとしかめながら、みかんがぼくを見た。

「ミズ、ト……」

「みかんごめん! ぼくのせいで! ぼくのせいで……!」

「だ、大丈夫だよ。ミズトが、無事だったから……」

 ほんの一瞬のうちに、額にびっしりと汗をかきながらも、一転にっこりと笑ってそう言ったみかんの言葉を聞いた、その、瞬間だった。

 ぼくは、全身を馬鹿みたいにぶるぶると震わせながら、壊れた蛇口のように泣き始めていた。

「みかん、みかん、みかん……!」

 ぼくの涙を、頬で受けながらみかんが続ける。

「……こ、こんな腕じゃ、水族館、行けそうにないね。ルキンちゃんにも、会ってみたかったな。もしかして、話せるようになったの……?」

「しゃべらないでいいから! 今はしゃべらないでいいから!」

 ぼくは絶叫しながらも、頭の隅っこの冷静な部分で、また男の人が、ホオジロザメに命令する声を聞いていた。

 ——まずい、早く殺せ!

 ——イインデスカ?

 ——構わん! エキジットしそうなら、その前にそうしろという命令だ! 急げ! 手足ではなく、内臓をやれ!

 と男の人が早口で怒鳴って、一度ギュンッと遥か上空まで泳ぎ昇ったホオジロザメが、これまでで一番のスピードで、一気にみかんとぼくに、襲いかかってきた。

 もちろん、牙まみれの大口を開きながら。

 ぼくはみかんを力いっぱい抱きしめると、ぎゅっと目をつぶって、迫り来るホオジロザメに背中を向けた。

 そしてぼくとみかんの上半身は、ホオジロザメに、ごっそりと食いちぎられた。

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