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 やがてたどり着いたのは、ヒノキがお行儀よく等間隔に植えられている、区域外れの山腹だった。

 確か三年生だった頃に、学年の全員で落ち葉拾いに来たことがある場所だ。

 ヒノキは葉っぱが細い針葉樹だから、落ち葉が堆肥たいひや燃料にはなりにくいのだけれど、あるとなしでは大違いということで、みんなで軍手をはめて、わいわい拾いまくったのを覚えている。

 とそれはともかく、日暮れまでまだけっこうな時間があるはずなのに、辺りはなぜか、もうすっかり夜と言ってもいいほどの暗さだった。

 まるで吸血鬼が太陽の光をやわらげるために、何本かのヒノキを木に見せかけた墨汁入りの加湿器にすり替えでもしたかのように、黒くて生ぬるい霧が辺りには分厚く立ち込めている。

 その中に漂っている数本の涼しい糸を首筋に感じながら、踏み分け道の最果てにある、小さな山小屋を目指しつつ、戻ってきていたルキンにこうぼくは尋ねる。

〈あの小屋に、みかんがいるの?〉

〈けれども、見張られているヨ〉

〈闘わないと、助けられない?〉

〈それは、ミズの役目じゃないヨ〉

 略称だったけれど、ルキンがぼくの名前を言ってくれたことにそこはかとない喜びを感じながら、ぼくは訊き返した。

〈ぼくの役目、じゃない……?〉

〈さあ、グーゲンカするヨ〉

〈え? 何? ケンカをする?〉

〈いいから、先にするヨ〉

〈だから何を?〉

〈グーゲンカだよ——いタよ、きたヨ〉

〈え? 来たって何が? どこから!?〉

〈後ろだヨ〉

 振り返った瞬間、ぼくは、完全に腰を抜かしていた。

 『それ』が巨大すぎて、不気味に青白かったということもある。

 でも、それだけじゃない。

 ぼくが本当に驚いたのは、『それ』がそこそこのスピードで、木々の間を縫うように、『空中を泳いでいた』からだ。

「——ひっ! サ、サメ?! ホオジロ……?!」

〈しゃがんで、葉っぱに隠れるヨ〉

 ルキンに言われるまでもなく、腰を抜かしてとっくに尻もちをついてしまっていたぼくは、力の入らない手足を放り出すように、ファバサッと地面に仰向けになると、どうにか全身を草むらの中に隠し終えた。

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