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   ⌘


〈——ねえ、いかナイの?〉

 それは、妙な声と口調だった。

 よくはできているけれど、どこか今いちな、AIのそれのような。

 台詞を棒読みしている、小さな子どものそれのような。

 まったく新しいようでいて、どこか懐かしくもあるような。

 正確に言うとテレパシーなのかもしれないけれど、ぼくには確かに、『声』に聞こえたのだ。

「……誰?」

 直感でルキンだとわかってはいたけれど、ついぼくは尋ね返した。

〈わかるでしョ〉

 周りを見ても、当然声の主らしき者は見当たらない。

 とすると、やっぱり……。

 ぼくはごくりと唾を飲むと、目を閉じて尋ねた。

「……ルキン、なの?」

 まぶたの裏っかわで、こっちを向いているルキンが、パクリと口を動かした。〈だヨ〉

 自分で訊いておきながら、ものすごくびっくりしてしまったぼくは、がばっと目を見開いた。

 にもかかわらず、ルキンは当然のように話しかけてくる。

〈いかナイの?〉

「……どこ、に?」

〈みかンを、たすケに〉

「助け……みかんはやっぱり、さっきの事件に、巻き込まれてるの?」

 とそう尋ねた直後に、テレビの映像と音がルキンにも見聞きできていたのかどうか不安になったけれど、どうやらできていたようだ。

 当然のようにルキンは、

〈ほかのピトタチが、まきこまれタんだヨ〉

 と答えたけれど、その内容はぼくには少し、難解だった。

 いずれにしても、ピトタチじゃなくてひとたちでしょ、と突っ込んでいる余裕も、一体なぜルキンがみかんを知っているのかという疑問をぶつける余裕もなかったぼくは、普通に話を続けた。

「他の人たちが? それって、どういう意味……?」

〈いかナイの?〉とルキンは、ぼくの疑問をスルーした。

「……行かないと、どうなるの?」

〈うしなわレるヨ〉

「失われるって……?」

〈みかンのニク〉

 ——瞬間。

 見えない誰かのこぶしが、ドン、とぼくの心臓を殴りつけた。

 直感でそれが、みかんの『死』を意味することが、はっきりとわかってしまったのだ。

「……ねえルキン。みかんの『ニク』が失われるのは、いつなの?」

〈おひさま、シズムときだよ——ねえ、いかナイの?〉

 ぼくは、あえてゆっくりゆっくりと背筋を伸ばしつつ、特大の深呼吸をひとつすると、震えそうな声を喉できゅっと押さえつけながら、こう答えた。

「行くに決まってるでしょ」

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