第4話 ピンチ! 王女と魔法使いと盗っ人と

 頑丈な王宮うちの馬車は横に倒れただけで壊れていなかった。


 ライアンとわたしは窓から様子を窺う。

 可哀想に、ローズはガタガタと震えていた。

 わたしはローズの肩を抱く。


「ミャア様、これからどうなってしまうのでしょう!?」

「大丈夫よ! わたしがいるわ。ライアンとソラもいるし、なんとかなるわよ」

「……ああ、俺が二人を守る」


 わたしの乗る馬車を守るようにソラと護衛騎士団のメンバーが、円陣を作っていた。


 それを取り囲むように見るからに悪そうな人たちの集団が囲う。


 襲撃犯は二つのタイプ……。

 魔法を扱いそうな服装の人間と、屈強な体格にニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ武器を持っている人間たちがいる。


 わたし、野良猫だった頃にこんな顔のいじめっ子を見たことがある。


 イヤな感じがする。

 ドクンドクンと緊張の鼓動がしてきた。



 顔まで隠すとんがり帽子に黒の波紋模様を散らした臙脂色のローブを着た輩たち。と、それからどう見ても普通の生業で生きていないだろうなっていう盗賊団って風体の集団がおのおの武器を掲げている。


 ライアンが先に頭の上になってしまった馬車の扉を開け出て、わたしとローズを次々と引っ張り上げて外に出る。


「ミャア! ローズ! 怪我はないか!?」


 ソラが慌ててマントを翻しながら颯爽と駆け寄って来る。


 わたしとローズが馬車から出ると、野太くてしゃがれた聞き慣れない声がした。


 ローブで顔を隠した襲撃犯のうち、まず毛並艶の良い黒馬に乗った者がゆっくりじわりじわりとこちらに近寄って来た。


「王女ミャア様、我々、後方から車輪を攻撃させていただきました。お怪我はありませんか? 大事な金づる、傷をつけるなとの依頼主の命令ですからね」


 ――依頼主?

 この方達、実行犯と別に依頼者がいるってことなのね。


 襲撃してくるような物騒な相手なのに、丁寧な口調が余計に不気味だったりする。


 わたしは言葉を発せず、相手の語る言葉にじっと聞き耳を立てていた。

 顔は見えないけれど、どうやら男性みたいね……。


 ライアンとソラがわたしとローズの前にすっくと立ち、両手を広げて身をていして守ってくれてる。


「出来れば、ミャア様のお顔を拝したいのですが」

「お前達みたいな野蛮な連中にあるじの身分素性も素顔も明かさせない、必要ない」


 ソラが腰に差した騎士団副団長の剣を抜く。


「その制服にその剣は、王女直属の騎士団のもの。たしかソラ副団長ですね。その主とあらば、やはりミャア様ですよねぇ」


 ライアンがチッと小さく舌打ちした。


「私ども、手荒な真似はしませんよ? ミャア様と騎士団の皆様が大人しく捕まってくだされば」

「ふざけるな。誇りをかけ僕たちには守るものがある。命をして蛮行には屈しない」

 

 魔法使いの方は、黒と臙脂色のローブに……胸には逆さ五芒星のマーク? たしか悪魔と闇魔術を信仰する集まりだったわよね。肩にカラスや小型のハゲワシを載せているものもいる。

 盗賊団の方は、それぞれが斧や大剣や大鉈を振りかざして笑っていた。


 中央の巨体な男は上半身が裸で、肩から鎖を巻きつけている。

 へ、変なファッションね。

 この人が主犯格の一人? あっちの丁寧な物言いのとんがり帽子とどっちがリーダーなのかしら?


「わたし、あなたがたに旅路を邪魔される覚えはまあったくないのですけど!」


 意気込んで言ったら、襲撃相手が杖を振るって突然風が吹いてきて顔まで覆っていたローブがひらっとめくれちゃったの。

 か、風魔法?


「やはり、王女様ではないですか! ……フフフ、これはこれは王女ミャア様、噂にたがわず麗わしゅうございますな」


 後方の私を気遣いながら視線を送る、ライアンとソラが一瞬渋い顔をしたのが見えた。

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