⑨部活設立編

「部室が、ほしー!」

「意訳、お昼休みに堂々と静かに昼寝するスペースが欲しい」

「原文の数倍長い翻訳をよくもまあ簡単にできるわね、僕くん」

「ツンデレちゃん。僕と幼馴染ちゃんの仲を何だと思ってるんだい?」

「えっ。エサをねだるだけの雛鳥と巣立たそうとしない過保護な親鳥?」

「否定できないのが悲しいところだなあ」


~ ~ ~


「寝室♪ 寝室♪ 日当たり良好の寝室♪」

「ダメだよ幼馴染ちゃん。一応部室って言わないと」

「一応じゃなくてバリバリ部室なんだけれど!?」

「僕くん」

「まるで忍者みたいに気配を殺してアサシンちゃんがやってきた」

「とりあえず現存する全部活の部室の鍵を用意したでござる」

「あんたも大概にしなさいよね!?」


~ ~ ~


「私は寝たいです!」

「家で寝ろ」

「そこをなんとか、行き遅れ三十路先生」

「僕、お前が甘やかすから幼馴染ちゃんは協調性って言葉を覚えないんだぞ?」

「だって必要ないんですもん」

「なんでだよ」

「こんなに可愛いんだから向こうから勝手に寄ってきますよ」

「でへへ♪」

「私、教師じゃなかったらお前らのこと三回はヤってるぞ☆」


~ ~ ~


「正式な部としての発足には五人の部員が必要、か」

「い~ち♪」

「に!」

「さんでござる!」

「よん」

「ゴ」

「よし、足りてるね」

「ちょっと待ちなさい最後誰よ!?」


~ ~ ~


「ちっ、揃えやがったか」

「先生、仮にも僕たちの担任なのに舌打ちはまずいと思います」

「余計な仕事増やす奴は例外なく敵なんだよ」

「僕がセンシティブな子供だったらその怠慢っぷりを教育委員会に訴えてるところですよ」

「んで、部活名はどうすんだ?」

「華麗にスルー」

「僕くんと幼馴染ちゃんのお部屋♪」

「……ツンデレちゃんと僕くんの愛の巣」

「死角から愛を込めて♡」

「あ、読書部あたりでお願いします」


~ ~ ~


「いともたやすく根城をゲットだぜぃ、イエイ♪」

「入場中のプロレスラーくらいテンション高い幼馴染ちゃん」

「んー、しばらく放置されてたせいで、埃っぽいねこの部屋」

「きれいにしよっか」

「うん!」

「なんで僕の身体にまんべんなくすりすりしてるの?」

「お掃除!」

「幼馴染ちゃんは粘着カーペットクリーナーか何かなの?」


~ ~ ~


「そっち雑巾がけ終わったー?」

「うん! バッチリだよ、僕くん!」

「ふー、なんかいい汗かいたね」

「うへへ♪」

「どうしたの、ニチアサでは絶対映せないくらいの危険な笑顔浮かべて」

「私たちが結婚して念願のマイホームに入居したら初日はこんな感じかなあって想像したの!」

「全然違うでしょ」

「えっ」

「僕が大切な花嫁さんに掃除なんて重労働課すと思う?」

「僕くん……っ」

「はいはーい誰かこの観客がいるの忘れて盛り上がってるおバカップル二人に熱湯ぶちまけてー! 今なら何しても事故で誤魔化してあげるわよー!」

「嫉妬とは、かくも醜いものでござるなあ」


~ ~ ~


「とりあえず体育倉庫からマットを持ってきた」

「ナイス家具配置!」

「掛け布団は部室の入り口でもじもじしてたツンデレちゃんが手にしていたタオルケットだよ」

「わあい! 私、タオルケット大好き! ほんとはさっさと渡したかったけど改めて声をかけるのが恥ずかしくてつい躊躇って立ち往生してたところを僕くんが気付いてせっかくの厚意が無駄にならなくて済んでホッとしてるツンデレちゃんが用意してくれたタオルケット大好き!」

「もうやめて殺してええええええええ!」


~ ~ ~


「では」

「いざ」

「尋常に」

「おやすみなさーい!」

「キーンコーンカーンコーン」

「……とまあ、そうやすやすと寝れるとは思うなよと言わんばかりのタイミングで鳴るチャイムでしたとさ」

「寝るのー! わたしだけ五時間目の授業お昼寝なのー!」

「悲痛な叫びも虚しく、幼馴染ちゃんは僕にかつがれるのだったとさ」

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